最新記事

英王室

ヘンリー王子の結婚で英王室は変わるのか

2018年5月17日(木)18時00分
ヤスミン・アリバイブラウン(ジャーナリスト、作家)

物騒な動きは収まらない。国家警察署長協議会によれば、あの国民投票後にヘイトクライムは49%も増えている。私が話を聞いた離脱派は、有色人種や東欧出身者が国内にいること自体に怒っていた。ある老人は私にこう言い放った。「国を取り戻したい。あんたはイギリス人と結婚しているが、絶対に私たちの仲間にはなれない。私は人種差別主義者ではないが、あんたみたいなパキはこの国にいらない」

彼らにとって、私たち移民や有色人種は全てを盗む泥棒らしい。仕事、住宅、医療に恋人。今度はヘンリーまで奪ったというわけだ。

オックスフォード大学移民観測所が17年に実施した調査によれば、「イギリス人は出身国で移民を明確に区別している」らしい。「オーストラリア人を移住させるべきではない」と答えた人は10%だったが、「ナイジェリア人を移住させるべきではない」とする人は37%に上った。つまり、移民として最も好ましいのはキリスト教国出身の英語を話す白人。最も好ましくないのは、イスラム教国から来た非白人だ。

ささやかれるマークル孤独説

最近は、私も差別を肌で感じている。つばを吐かれ、侮蔑的な言葉をぶつけられる。殺すと脅迫されて、警察の警護を受けるようになった。EU離脱の手続きには議会の承認が必要だと主張して裁判に勝ったガイアナ出身の女性実業家ジーナ・ミラーも、人種差別主義者に命を狙われている。

マークルも憎悪や差別と無縁ではいられない。11月の婚約発表に対する一部の報道は、目に余るほど差別的だった。タブロイド紙デイリー・メールは「奴隷から王室へ」とツイート。ボリス・ジョンソン外相の妹でジャーナリストのレーチェル・ジョンソンは、マークルは英国王室に「エキゾチックな遺伝子を持ち込む」とメール・オン・サンデー紙に書いた。彼女はマークルの母親を「髪をドレッドにした下層出身のアフリカ系」と評したこともある。

差別を監視するラニーミード財団によれば、イギリス白人の25%は特定の人種に対する偏見を抱いている。親戚がイスラム教徒と結婚することに抵抗を感じる白人は50%に上る。国家統計局(ONS)は、大卒の黒人男性は大卒の白人男性に比べて無職になる確率が2倍近いとしている。

それでも悲観するには及ばないと、社会地理学者のダニー・ドーリングは考える。「少数の差別主義者がつけ上がっているだけで、一般の差別意識は今も薄れつつある」。そう語るドーリングは、ロイヤルウエディングのもたらす景気刺激効果にも期待している。国民がEU離脱の経済的打撃の大きさに気付き始めた今、この国に必要なのは観光客と好感度だ。

ではマークルに必要なものは何か。王室は彼女を幸せなプリンセスに仕立てたいようだが、「マークルは孤独を感じている」とみる記者もいる。

ヘンリーとマークルには末永い幸せを祈りたい。でもプリンセスには油断なく、賢く振る舞ってほしい。彼女が入る王室と国家は、見た目ほどフェアでも開かれてもいないのだから。

(著者はジャーナリストで、ウガンダ生まれのイスラム教徒。移民や多様性に関する多くの著書がある)

本誌2018年5月22日号[最新号]掲載

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 8
    三船敏郎から岡田准一へ――「デスゲーム」にまで宿る…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中