最新記事

英王室

ヘンリー王子の結婚で英王室は変わるのか

2018年5月17日(木)18時00分
ヤスミン・アリバイブラウン(ジャーナリスト、作家)

magw180517-harry03.jpg

チャールズ皇太子は愛人カミラと再婚 Toby Melville-REUTERS

離婚も階級も障害ではない

エリザベス女王の妹であるマーガレット王女は52年に、戦時の英雄ピーター・タウンゼント大佐と恋に落ちたが、離婚経験者であったため結婚は許されなかった。77年に16歳でチャールズと出会ったダイアナは4年後に壮大な結婚式を挙げたが、チャールズは長年の愛人で既婚者のカミラ・パーカー・ボウルズとの関係を続けた。

ダイアナは王室の慣習と傲慢さを拒み、本能的に人々を平等に扱い、多様な人々を受け入れた。大衆は自分たちの王女としてダイアナを愛したが、頑固な王家は彼女の奔放さを嫌った。誰でも受け入れるダイアナの包容力は王室にとっても利用価値があったのに、彼女の存在と行為を認めることはなかった。

離婚はつらい経験だったが、ダイアナは解放された。彼女はイスラム教徒の男性2人と恋に落ち、そのうちの1人と結婚しそうになった。それが実現していたら、王室はどう対処していただろう。彼らにとって幸いなことに、ダイアナは王室にさらなる試練を与える前に亡くなった。

一方、チャールズは晴れてカミラと結婚した。離婚はもはや罪でも、越えられない一線でもない。階級の境界も消えようとしている。女王の末息子のエドワード王子は、タイヤ販売業者の娘ソフィーと結婚した。

ウィリアム王子と結婚したキャサリン妃は、元客室乗務員とパーティーグッズの会社を経営するビジネスマンの娘だ。そしてマークルの母ドリア・ラグランドはヨガ教師、父トーマス・マークルはテレビの元照明ディレクター。70年前ならマークルは「王子の妻ではなく愛人で終わっただろう」と評したのは、英誌スペクテーターだ。いずれにせよ、近親婚や世襲貴族との見合い婚はもう時代遅れ。今は中産階級の平民が相手でも問題ない。

かつて王室の広報を担当していた人物によれば、ヘンリーは完璧なPRの機会を提供してくれた。「神話を変えなければ王室に未来はないことを彼らは知っている」と、彼女は言う。

しかし弁護士で作家のアフア・ハーシュは、マークルを迎え入れたことで王室が大きく変わるというのは幻想だと考える。「メーガンの王室入りで何世紀にもわたる構造的な不平等が変わるとは思えない」と、ハーシュは言う。「イギリスは、自国にはアメリカのような奴隷制度や人種分離政策、制度化された人種差別はないと自らを欺き、自己満足してきた。しかし植民地では現地の人々を搾取し、有色人種を徹底して差別していた」

その後のイギリスはずいぶん寛容になったが、近年はその反動が来ているようだ。4月に政府が、25年前に白人集団に殺された黒人少年スティーブン・ローレンスの追悼記念日を設けると発表すると、激怒する白人がいた。

最近は排他的な政党や政治家が声高に意見を主張し、幅を利かせている。EU離脱に賛成票を投じた国民全員が人種差別主義者だとは言わないが、投票した差別主義者の全員がEU離脱に賛成したとは言えるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スペイン首相が続投表明、妻の汚職調査「根拠ない」

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中