最新記事

テロ時代の海外旅行

日本人は旅行が下手だ(テロ時代の海外旅行術)

2018年4月24日(火)07時00分
森田優介(本誌記者)

結局、海外旅行は危ないのか、危なくないのか──。現実には日本国内も含め、100%安全な場所などどこにもない。問題はイメージや一時の報道だけで判断してしまうことだ。特に日本人はその傾向が強いように思える。

「昨年下期に北朝鮮のミサイル問題があって、日本人の足がグアムから遠のいた。当社でも、行き先の選択肢からグアムを外すお客様が多かった」と、海外ウエディング・ハネムーン専門の旅行会社のマネジャーは言う。

グアムは結婚式に加え、修学旅行でも人気の観光地だが「代わりにどこへ行ったかというと沖縄。昨年の沖縄は特に修学旅行の受け入れ数が伸び、特需だったと聞いた」。北朝鮮が中距離弾道ミサイルをグアムに向けて発射する計画だと報じられたが、沖縄もミサイルの射程内で、米軍基地がある点でも変わりはないのだが。

こんな事例もある。韓国で15年にMERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルスが蔓延したとき、顧客企業から「トランジットでソウルを経由するが大丈夫か、といった問い合わせまで受けた」と、インターナショナルSOSの日本法人のメディカルディレクター、葵(あおい)佳宏は言う。咳をしている人を避け、マスクを着け、手洗いとうがいを徹底すれば2時間の空港滞在は問題ない。「正しい知識があれば、不用意なキャンセルは減らせる」

インターナショナルSOSは海外医療と渡航安全のサービスを企業や政府、国際機関に提供する企業で、フォーチュン500社の69%、日本でも日経225銘柄企業の半数を顧客に持つ。同社のトラベルセキュリティー専門家である黒木康正によれば、日本企業は外国企業に比べ、リスク評価の仕組みが確立されていないと感じるという。

「進出先国で何か起こったとき、外国企業はすぐに撤退するが、戻ってくるのも早い。日本企業の場合、グローバル企業でも経験則を持つ個々の担当者に頼っているところがあった。最近になってようやく、組織的な安全対策を取り始めたようだ」

高齢旅行者のリスクが増加

海外邦人安全協会の小野によれば、大企業はまだましだ。日本の中小企業は対策が遅れており、そのため外務省は16年、海外で活動する中小企業の安全対策を強化するためのネットワークを設立。17年には、人気漫画『ゴルゴ13』を使った安全対策マニュアルも作成し、意識の向上に努めている。

企業でこの程度なのだから、旅行者の安全対策がおざなりになっているのは分からなくもない。インターナショナルSOSの葵は、チベットや中南米など医療システムが発展途上の僻地に行く高齢の日本人旅行者の増加に伴い、旅先で高山病などにかかる人が増えていることも指摘する。なかでも心配なのはツアーで行く人だ。「ツアー参加者は旅行会社に任せきりで、個人旅行者よりリスク意識が低い」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀、柔軟な政策対応の局面 米関

ビジネス

3月完全失業率は2.5%に悪化、有効求人倍率1.2

ビジネス

トランプ氏一族企業のステーブルコイン、アブダビMG

ワールド

EU、対米貿易関係改善へ500億ユーロの輸入増も─
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中