最新記事

テロ時代の海外旅行

日本人は旅行が下手だ(テロ時代の海外旅行術)

2018年4月24日(火)07時00分
森田優介(本誌記者)

ミサイル騒動で日本人客が減ったグアムだが、その穴は韓国人客が埋めた MJF795/ISTOCKPHOTO

<人気の観光地でテロが起き、行き先選びに悩む時代。だが日本人の「安全性」に対する意識はどこかおかしい。本誌5月1/8日号「どこが危なくない? テロ時代の海外旅行」より>

東京で会社経営をする花霞(かすみ)和彦は年に10回ほど海外へ旅行に行く。自分でホテルと航空券を手配し、ほとんどは一人旅。これまでに100カ国以上を訪れ、特に世界遺産は1000件超あるうちの3割以上を見てきたという旅の上級者だ。

だが意外なことに、世界遺産ギザのピラミッドを擁するエジプトには行ったことがない。「これまでに2、3回行こうと計画したが、その都度、アラブの春やテロが起こって断念した」

そんなエジプトにも今、観光客が戻りつつある。2月にプレスツアーでエジプトの観光業を視察した記者によれば、「ホテルもピラミッドも中国人でいっぱいだった」。過去最高の観光客数は10年の1473万人。10年末からのアラブの春以後は政変に揺れ、観光業が大打撃を受けたが、昨年は11月までに750万人が世界から訪れている。

しかし、日本人の戻りは鈍い。エジプトは11年、観光客数が対前年比33%減と落ち込んだが、このとき日本人は年間13万人弱から3万人弱へと、一気に80%も減少した。以来、1万〜3万人台と低いままだ。

もちろん、誰だって危ない目には遭いたくない。だが「旅は基本的に危険なものと認識すべきだ」と、外務省と連携して海外に行く日本の個人や企業に危機管理情報の提供などを行う、海外邦人安全協会の小野正昭会長は言う。「窃盗など海外旅行にはさまざまなリスクがあるが、近年はテロや自然災害、感染症など、防ぐのが困難なリスクに直面してきている」

ここ数年、人気の観光地や欧米の主要国でもテロが相次ぎ、旅行先選びが難しくなってきたのは確かだ。15年のパリ同時多発テロ、16年の米フロリダ州ナイトクラブ銃乱射事件、17年のロンドン橋テロ......。小規模な事件まで含めればきりがない。花霞のような上級者ですら影響を免れないのだから、旅慣れていない人はなおさらだろう。

これだけ世界が「危険」になったら、一体どこへ行けばいいのか――そう感じている人は少なくないはずだ。しかし、多くの観光業関係者が言うように、日本人は治安に敏感。いやむしろ、敏感過ぎるのではないか。

グアムが怖いから沖縄へ?

怖いからといって、海外に行かないのはもったいない。格安航空会社(LCC)とオンライン旅行会社の普及により、世界は格段に近くなった。世界経済フォーラムによれば、世界の観光業は6年連続で世界経済全体を上回る伸びを見せており、16年には延べ40億人近くが飛行機を利用した。世界中の人が旅行を楽しんでいる時代に、日本人は「危ないと思われる」場所を今後も避け続けるのだろうか。

そもそも、本当にそこは危険なのか。安全性が問われる時代だからこそ、どこがどのくらい危険かをきちんと見極める必要がある。実際、経済平和研究所(オーストラリア)の17年の調査によれば、中東の紛争やヨーロッパの難民危機に報道が集中するなか、見逃されている変化もある。調査対象の163カ国・地域のうち、67%で「殺人率」が減少しているのだ。地域別で見ると、特に南米が16年の前回調査から最も改善している。世界が一様に「危険」になっているわけでは決してない。

【参考記事】歩きスマホはダメ!専門家に聞く海外旅行の安全対策

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

S&P、米国のソブリン格付け「AA+/A─1」据え

ビジネス

訂正-米パロアルト、5─7月の調整後利益が予想超え

ビジネス

豪8月消費者信頼感が大幅上昇、利下げで家計・経済見

ビジネス

シーイン、本社の中国移転検討 香港IPO承認取得に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 9
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 10
    米ロ首脳会談の失敗は必然だった...トランプはどこで…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中