最新記事

人体

「パートナーに手を握ってもらうと、痛みが和らぐ」

2018年3月7日(水)17時20分
松岡由希子

パートナーの手を握ると、脳波がより同期して痛みが消えていく PeopleImages-iStock

<「肉体的な痛みのあるパートナーの手を握ると、脳波がより同期して痛みが消えていく」という研究論文を発表された>

恋人やパートナーに手を握ってもらうと、愛情を感じたり、安心感を覚えたりするものだが、このような精神的な作用にとどまらず、肉体的な痛みを和らげる効果もあるようだ。

アメリカのコロラド大学ボルダー校とイスラエルのハイファ大学の研究プロジェクトは、学術雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」において、「肉体的な痛みのあるパートナーの手を握ると、呼吸や心拍数だけでなく、脳波が同期し、パートナーに感情移入するほど、脳波がより同期して、パートナーの痛みが消えていく」という研究論文を発表した。

妻が娘を出産する際の経験から着想した

この研究プロジェクトは、研究論文の筆頭著者であるコロラド大学ボルダー校の研究員パベル・ゴールドスタイン氏の経験から着想したもの。

妻が娘を出産する際、ゴールドスタイン氏が妻の手を握ると、陣痛が和らいだという。そこで、ゴールドスタイン氏は、「触れることで、本当に痛みが和らぐのか。もしそうだとすれば、どのような仕組みによるものなのか」をテーマに、研究活動に着手した。

研究プロジェクトでは、交際開始から1年以上が経過した23歳から32歳までの異性カップル22組を対象に実験を行った。

相手に触れずに並んで座る、手を握りながら並んで座る、別々の部屋に分かれるというそれぞれのパターンにおいて脳波用電極キャップで被験者の脳波活動を測定し、さらに、女性の腕に低刺激の熱の痛みを与えた上で、同じパターンを繰り返し、同様に脳波を測定した。

感情移入により脳波活動が同期し、痛みが和らぐ

その結果、触れているかどうかを問わず、カップルが一緒にいると、集中力に関連するアルファ波において脳波が同期したが、とりわけ、女性に痛みがある間に男性が手を握ると、その同期は最も高くなった。また、男性が女性の痛みに対して感情移入するレベルが高いと、脳波活動はより同期し、これによって、痛みがより和らぐことがわかった。

ゴールドスタイン氏は、「感情移入による脳波活動の同期によって、どのように痛みが止まるのかについては、さらなる研究が必要だ」としながらも、「感情移入しながら触れてもらうことによって、自分は相手に理解されているのだと感じ、鎮痛のメカニズムが脳内で作動するからではないか」との仮説を示している。

また、この研究結果と同様の効果が、同性カップルや他の関係性においても認められるのかについても、今後の研究が待たれる。

このように、まだ明らかになっていないポイントはいくつかあるものの、その痛みに心をよせ、手を握ることで、大切な人を癒す効果が少なからずあるようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

韓国クーパン、顧客情報大量流出で11.8億ドルの補

ワールド

尹前大統領の妻、金品見返りに国政介入 韓国特別検が

ビジネス

日経平均は反落、需給面での売りが重し 次第にもみ合

ビジネス

午後3時のドルは156円前半、年末年始の円先安観も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中