最新記事

動物

巨体キタシロサイ最後のオス「スーダン」重体

2018年3月5日(月)18時20分
イワン・パーマー

ケニアのオルペジェタ自然保護区で餌をもらうキタシロサイの雄「スーダン」(2015年) Baz Ratner-REUTERS

<世界で最後の1頭となったオスのキタシロサイの健康状態が悪化し、いよいよ種の絶滅が近づいたとして関係者が胸を痛めている>

世界に3頭しかいないキタシロサイのうち唯一のオスである「スーダン」は、右の後ろ足が2度目の感染症にかかって重体だ。メス2頭とともに暮らすケニアのオルペジェタ自然保護区によれば、45歳のスーダンは「苦しそうな様子で、先行きは明るくない」という。

スーダンは昨年、米デートアプリ大手ティンダーに「世界で最も結婚相手にふさわしい独身男性」として登録され注目を集めた。キタシロサイの人工繁殖のため、ティンダーとオルペジェタ自然保護区が合同で行った資金集めの一環だった。

rihno170305-2.jpg
Ol Pejeta Conservancy/Facebook

オルペジェタ自然保護区は声明で言った。「2017年の暮れ、スーダンの右の後ろ足が、老化に伴う感染症にかかった。当時は世界中から集まった獣医師のチームが直ちに診断し、治療後の経過も良好で、症状はすぐに回復に向かった」

「1月から2月中旬にかけて、スーダンは普段通りに動き、餌も採れるようになった。活動量も表情も目に見えて改善した」

「最近、最初の感染部の下に、もっと深刻な感染症が見つかった。獣医師チームが24時間体制で手当てし、最善を尽くしているが、前回より回復が遅い」


(スーダンと世話をする人間たちのドキュメンタリー映画『最後に生き残ったオス』(製作中)が、未来に残るキタシロサイの唯一の記憶になってしまうのか)


無駄に苦しませたくない

「スーダンのことがとても心配だ。サイとしては非常に高齢だし、無駄に苦しませたくもない」

スーダンは重体に陥る前から、2頭のメス ── 「ナジン」とナジンの子「ファトゥ」── との間で子孫を残すのはほぼ不可能と見られていた。米科学ウェブサイト、ライブ・サイエンスは2015年3月、スーダンは精子の数が極度に少ないため自然な受精は極めて困難だと伝えていた。

オルペジェタ自然保護区は今も、体外受精を含む様々な技術を使った繁殖の可能性に望みをつないでいる。

今生存する3頭のキタシロサイは2009年、チェコの動物園からケニアの自然保護区に引き取られた。もう一匹のオスが2014年に死亡して以降、スーダンは世界で最後のオスになった。

サイの国際保護団体「セーブ・ザ・ライノ(サイを救え)」によれば、キタシロサイはかつて、ウガンダやチャド、コンゴ民主共和国など、アフリカ中央部の広範囲に生息していた。頭数が減少に転じたのは、植民地時代に広まった狩猟で大量殺戮されたり、大陸の都市化に伴って生息環境が変化したりしたせいだ。

密猟の横行もあって1970~1980年代に頭数が急減し、キタシロサイはアフリカ中央部の広範囲で絶滅寸前になった。コンゴ民主共和国やスーダンで起きた内戦も、頭数の急減に拍車をかけた。

<追記>
この記事の後、3月4日にオルペジェタ自然保護区のフェイスブックページが更新された。スーダンが起き上がり、静かに草を食べ始めたという。


(スーダンは「まだ生きる意志を失っておらず、戦わずに死ぬつもりもない」)

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英国王夫妻、トランプ米大統領夫妻をウィンザー城で出

ビジネス

三井住友FG、印イエス銀株の取得を完了 持分24.

ビジネス

ドイツ銀、2026年の金価格予想を4000ドルに引

ワールド

習国家主席のAPEC出席を協議へ、韓国外相が訪中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中