最新記事

朝鮮半島危機

第2次朝鮮戦争後の東アジアで何が起こる?

2018年2月6日(火)17時50分
エリック・チャン(米空軍政策分析官〔中国政治・安全保障担当〕)、ピーター・ロフタス(米空軍少尉)

また、おそらく北朝鮮崩壊後も不安定な状況は続くだろうから、米軍の高いプレゼンスはしばらく維持される可能性が高い。それが展開される場所は、朝鮮半島周辺だけでなくアジア太平洋全域に及び、この地域に積極的に進出してきた中国を不安に陥れる。

その中国では、習近平(シー・チンピン)国家主席による権力集中が進んでいる。これは迅速な意思決定を可能にする一方で、習は国内の混乱は何としてでも防がなければならないという思いと、世界の舞台で弱腰だと思われてはならないという意地を強めるだろう。

「統一朝鮮」の将来性

それだけに北朝鮮崩壊後の混乱は、習にとっても中国共産党にとっても、天安門事件以来の大きな難題になる。目先の懸念は、北朝鮮難民が数百万人規模で中国に流入して、中国東北部の社会や経済を著しく不安定化させることだ。

この問題は中国とアメリカ、そして新たに統一された朝鮮半島(以下「統一朝鮮」と呼ぶ)との関係を悪化させるだろう。中国指導部が、「そもそも朝鮮半島危機は、トランプ政権の強硬な政策がきっかけだ」と判断したら、米中間の緊張は一段と悪化する。

当面の間、中国指導部は難民問題など北朝鮮崩壊後の混乱への対応に追われるだろうが、それが一段落したら、これまで以上に強気な態度を示すようになるだろう。それは台湾との関係にも影響を与えるはずだ。

かねてから習指導下の中国は、台湾に対する態度を硬化させてきた。習は17年秋の第19回中国共産党大会で、台湾独立に断固反対すると明言。自らが主張してきた「中華民族の偉大な復興」にとって、台湾統一は不可欠であるとの考えをにじませた。

北朝鮮の金体制が崩壊して、韓国に合流する形で朝鮮半島が統一されれば、人口約7500万人の国が誕生する。数十年もたてば、統一朝鮮は戦争の荒廃から立ち直り、現在の韓国よりはるかに大きな経済基盤と国際的な競争力を持つだろう。

当然参考になるのは、91年の東西ドイツ統一だ。統一により経済基盤も政治的影響力も大きくなったドイツは、EUのリーダーに成長し、ヨーロッパという共同体の経済的・政治的バランスを根本から変えた。

統一朝鮮が同じような成長を遂げれば、中国との間で緊張が高まるのは間違いない。中国は北朝鮮の一部の歴史的領有権を主張したり、統一朝鮮における駐留米軍の地位や国境線の引き方など、地政学的な要素を問題視するかもしれない。

日中関係は一段と悪化

統一朝鮮は、日米関係も韓国時代とは違うものにするだろう。北朝鮮という脅威が消えた以上、アメリカと同盟関係を維持する大きな目的の1つが失われる。冷戦後のNATO(北大西洋条約機構)が経験したのとよく似た状況だ。

北朝鮮の脅威に対抗するために生まれた韓国と日本の協力関係も、統一朝鮮下では消滅するだろう。朝鮮人(韓国人)は伝統的に愛国主義的意識が強く、歴史的な敵である日本に対して、より強硬な外交政策を取るようになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ビジネス

米シカゴ連銀総裁、前倒しの過度の利下げに「不安」 

ワールド

IAEA、イランに濃縮ウラン巡る報告求める決議採択

ワールド

ゼレンスキー氏、米陸軍長官と和平案を協議 「共に取
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中