最新記事

環境

ロンドンの汚れた霧が弱者をむしばむ

2018年1月15日(月)12時00分
シドニー・ペレイラ

ロンドン名物の霧が胎児や高齢者の健康を脅かしているとの研究報告が Dan Kitwood/GETTY IMAGES

<排ガスなどによるロンドンの大気汚染が胎児と高齢者を直撃する>

大気汚染は健康に悪いという報告が相次いでいる。最近も新たに2つの研究により、車の排ガスなどによる大気汚染が最も弱い立場の人々の健康に悪影響を及ぼしている実態が明らかになった。胎児と高齢者だ。

ロンドン大学インペリアル・カレッジの統計疫学者レイチェル・スミスらは、女性が妊娠中に汚染された空気を吸うと低体重児が生まれるリスクが高まることを突き止めた。

スミスらは大ロンドン圏の出生登録データから06~10年に生まれた子供約54万人を抽出。排ガスなどに含まれる二酸化窒素(NO2)、窒素酸化物(NOx)、有害な微小粒子状物質PM2.5といった汚染物質の平均量と妊婦の居住地のデータを付き合わせた。その結果、母体が大気汚染物質にさらされた場合、出生時低体重は2~6%、胎児発育不全は1~3%増加していた。

スミスによれば、この結果は「ロンドンの道路交通による大気汚染が胎児の発育に悪影響を及ぼしている可能性を示唆している」。PM2.5による大気汚染を10%減らせば、低体重児の出生数を3%減らせるという。

同じくロンドンで実施された別の研究では、特に高齢者の場合に大気汚染が運動のメリットを帳消しにしかねないことが分かった。この研究は60歳以上の健康な人、安定期にある慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者と心臓病患者の計119人を対象に実施。

被験者は2つのグループに分かれ、一方はロンドン市内の静かな公園を、もう一方は交通量の多いオックスフォード通りを2時間ウオーキングした。

その結果、公園組は1時間以内に肺活量が向上し、血流が増加、血圧は低下した。効果が24時間以上持続したケースもみられた。動脈壁硬化についても、健康な人とCOPD患者で約24%、心臓病患者では20%近く減少した。

一方、オックスフォード通り組では、散歩による動脈壁硬化の改善率は健康な人で4.6%、COPD患者で16%、心臓病患者で8.6%にとどまった。

気掛かりな結果だ。14年時点で世界の総人口の92%がWHOの空気質ガイドラインの基準に満たない環境で生活していた。霧の都ロンドンだけでなく、人類全体の未来にもスモッグが重く垂れ込めているようだ。


ニューズウィーク日本版のおすすめ記事をLINEでチェック!

linecampaign.png

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

[2018年1月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中