最新記事

サイエンス

絶滅したマンモスがクローンでよみがえる

2017年11月15日(水)16時50分
クリスティン・ヒューゴ

シベリアの永久凍土の中で冷凍保存されていたマンモス。1万年の時を経てDNAが完全な形で残っている可能性は低い Julie Dermansky-Corbis/GETTY IMAGES

<アメリカの大学と韓国の研究機関がクローン技術でマンモスを復活させる研究をめぐってしのぎを削っている>

氷河時代の地球上で王者として君臨したマンモスにロマンを感じる人にはうれしいニュースだ。マンモスのクローン作成をめぐり、ハーバード大学医学大学院と韓国のスアム生命工学研究院の研究チームがしのぎを削っているのだ。

「脱絶滅」と呼ばれるこの試みを支えるのは、クローン技術を使って既に絶滅した動物をよみがえらせる技術だ。まず必要なのは、絶滅した動物のDNAを含む細胞核。これを近縁の現生種の核のない卵子に移植し、代理母の子宮に戻す。もしうまくいけば、地上から一度は姿を消した絶滅種を復活させられることになる。

では、大昔に絶滅したマンモスのDNA塩基配列をどうやって再現するか。2つのチームの手法の違いはここにある。

韓国のスアムは、犬をはじめとする動物のクローン技術で知られる研究機関だ。16年には、マンモス復活プロジェクトのために中国国家遺伝子バンクおよびロシアの北東連邦大学と協力することで合意したと発表した。

ロシア、特にシベリアの研究者と組むのは重要だ。マンモスの凍った死体はツンドラの解けかけた凍土の中に埋まっているからだ。スアムは映画『ジュラシック・パーク』よろしく、ここから抽出したDNAを培養したいと考えている。

だがDNAは壊れやすく、死後長い時間が経てば劣化が進む。スアムも犬のクローンを作る際には生前あるいは死の直後にサンプルを取る必要があり、死体を冷凍保存してはならないと呼び掛けている。シベリアのマンモスの死体は1万年かそれ以上、永久凍土という天然の冷凍庫に眠っており、DNAを完全な形で抽出するのは難しそうだ。

一方、ハーバード大学医学大学院のジョージ・チャーチ教授のアプローチは異なる。チャーチは人間への臓器移植を目的にブタのゲノムを編集する研究で知られている。

チャーチが目指しているのはマンモスの完全なDNAの採取ではなく、採取したマンモスのDNAをゾウのゲノムに組み込むというものだ。マンモスのゲノム配列は既に解析されており、どの遺伝子を使えばマンモスらしい特徴(長い体毛や寒さへの耐性など)をもたらせるのかも分かっている。

多くの人の想像力をかき立ててきたマンモス。ハーバードとスアムのどちらが先にクローン作成に成功するかは分からないが、その姿が現代によみがえればまさに歴史的な出来事になるはずだ。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年11月14日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは154円後半、米雇用統計控え上値重

ワールド

インド総合PMI、12月は58.9に低下 10カ月

ビジネス

プライベートクレジット、来年デフォルト増加の恐れ=

ワールド

豪銃撃、容疑者は「イスラム国」から影響 事件前にフ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中