最新記事

メディア

中国共産党大会、メディア「人事予測」の成績表

2017年10月27日(金)18時18分
長岡義博(本誌編集長)

Newsweek Japan

<いわゆる「チャイナ・セブン」には誰が選ばれるか? 共産党大会の前には必ず国内外のメディアがスクープ合戦を繰り広げるが、なぜ人事予測は難しく、誤報が生まれやすいのか>

10月24日、5年に1度の共産党大会が終わった。プロのチャイナウォッチャーか在野の中国政治愛好家かを問わず、毎回最も盛り上がるのが人事予測だ。とりわけ注目されるのは党大会閉幕の翌日に選出される、最高指導部である政治局常務委員7人。いわゆる「チャイナ・セブン」のメンバーだ。

特に今回、その予測競争が熱を帯びたのは、習近平(シー・チンピン)国家主席が次のリーダーをチャイナ・セブンの1人として選ぶと考えられていたから。「ポスト習」をめぐるさまざまなスクープ記事がメディアに出現した。しかし習は後継候補と目される人物を選ばず、結果的にいくつかの記事が誤報になった。

日本メディアは世界でも際立って中国共産党人事のスクープ合戦に熱心だ。チャイナ・セブンの顔触れは、アメリカを脅かす世界第2位の経済大国の針路に確実に影響する。しかもそれは全くの密室で決められ、ごく限られた党最高幹部たちの間でしか情報は共有されない――。

その内容をスクープしたいという記者の好奇心と本能をこれほど刺激する取材対象はない。最も有利なはずの中国メディアの記者に報道の自由はない。その点、日本メディアは他国と比べて中国での取材体制が充実しており、日本人記者が共産党人事で特ダネを書けば世界的スクープになる。同時に他社に特ダネを抜かれれば記者個人にとって大きなダメージになるから、予測合戦のプレッシャーは想像以上だ。

2カ月も前に読売・毎日が「スクープ」したが

中国政治の奥の院である「中南海(共産党要人が暮らす首都・北京中心部のエリア)」を取材するのは極めて難しい。特に習体制になってから情報統制が強まった。政治局常務委員はもちろん、その下の政治局員、さらにその下の中央委員といった政策決定に携わる幹部への取材はほぼ不可能になっている。

「中南海の要人に取材するのは到底無理」と、日本メディアの元北京特派員は本音を漏らす。数年前まで、毎年春に開かれる全国人民代表大会の冒頭に示されるGDP成長率の目標値を公表当日までにスクープするのが日本人記者の大きな仕事の1つだった。それもここ数年、すっかり見られなくなっている。

そんな中、8月24日にいち早く常務委員7人のリストをスクープして世界を驚かせたのが読売新聞だった。リストには次世代リーダー候補と言われた陳敏爾(チェン・ミンアル)、胡春華(フー・チュンホア)の2人が含まれていた。28日には毎日新聞も「『ポスト習』に陳氏内定 常務委入り」と報道。しかし、結果的にいずれも誤報だった。

朝日新聞が常務委員の人選を記事にしたのは、党大会開催が迫った10月12日。7人に絞り切れず、胡や陳を「可能性」ありとしてリストに入れた。結局正確なリストを報じたのは、党大会閉幕当日の朝刊で「同着」した産経新聞と日経新聞だった。

なぜ当初、間違った情報があたかも真実のように報じられ、2カ月もの間訂正されなかったのか。「中国の政治家周辺でリストを作る者がいて、偽物を含めてさまざまなものが出回る」と、別の元北京特派員は言う。「そのリストが本物かどうか、確認できるルートを持つことが重要だ」。功名心、プレッシャー、尋常でない取材の困難さ......。ワラにもすがる思いの記者たちが、真偽不明な中南海情報に飛び付くのも無理はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中