最新記事

ミャンマー

ロヒンギャが「次のパレスチナ人」になる日

2017年10月11日(水)17時00分
クレイグ・コンシダイン

隣国バングラデシュへ逃れるロヒンギャ Mohammad Ponir Hossain-REUTERS

<イスラム社会はロヒンギャ迫害を、70年前にパレスチナで起こった「大災厄」と重ね合わせ始めた>

パレスチナ人への迫害は、イスラム教徒の世界的な共同体を意味する「ウンマ」にとって、長年の関心であり続けた。パレスチナ人が慣れ親しんだ故郷を繰り返し追われ、不当な扱いを受け、国家樹立を否定されるのを、世界のイスラム教徒は長年にわたって目に焼き付けてきた。

そんな彼らの前に今、イスラム差別の新たな象徴が現れた。ミャンマー(ビルマ)のイスラム系少数民族ロヒンギャだ。

一部のイスラム系論者に言わせれば、ロヒンギャが受けている扱いは、これまでパレスチナ人しか経験していないようなものだ。当然、ウンマが見過ごすはずはない。

荒廃した村や、ロヒンギャがバングラデシュに避難する映像は、パレスチナ社会に伝わる「ナクバ(大災厄)」の記憶に強烈に訴える。ナクバとは48年5月、イスラエル軍が英委任統治領パレスチナから75万人以上を追い出し、イスラエル国家が建設された日だ。

いま世界中のイスラム教徒が、パレスチナ人とロヒンギャの経験に共通点を見いだしている。ロヒンギャも目に余る虐待の標的にされ、社会の片隅に追いやられている。

ロヒンギャは国家を持たない永遠の流民となり、彼らの人権を守ろうと声を上げる味方はほとんどいない。パレスチナ人と同じく自国の民族と認められず、不法入国者として扱われている。

イスラム教徒は、迫害の正当化に宗教が利用されていることもパレスチナ人との共通点とみている。ミャンマー政府は仏教徒の過激派に、ロヒンギャの迫害を促している。イスラエル政府は、ユダヤ人過激派がパレスチナ人の民族浄化を奨励するのを許してきた。

ミャンマーで仏教系過激派組織「969運動」を率いるアシン・ウィラトゥ師など超国粋主義の仏教徒は、イスラム教徒をアフリカのコイに例える。「繁殖スピードが速く、暴力的で共食いもする。国内では少数派だが、私たちは彼らがもたらす負担に苦しんでいる」

この言葉から思い出すのは、パレスチナ人を「蛇」呼ばわりしたイスラエルのアイエレット・シャクド法相など極右派の発言だ。シャクドは「パレスチナ人は全てわれわれの敵であり、抹殺すべきだ」と言い放った。イスラム嫌いには国境がないことを、改めて思い起こさせる。

イスラム世界に亀裂も

アラブ諸国のメディアは、ロヒンギャへの残虐行為についての論評を絶え間なく報じている。ヨルダンのアル・クッズ政治学研究センターのオレイブ・レンタウィは、ロヒンギャの問題が既に「シーア派対スンニ派」のような宗派対立よりも大きな問題になったと指摘する。米クリスチャン・サイエンス・モニター紙も、宗派的・政治的対立の要素がないロヒンギャの窮状は、宗派の垣根を越えた問題だと書いた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米トマホーク850発以上使用、イラン攻撃4週間 国

ワールド

アングル:米民主党、牙城カリフォルニア州の知事選で

ワールド

アングル:米の中東関与の隙突く中国、台湾は軍事圧力

ワールド

イエメン・フーシ派、イラン情勢巡り軍事介入の用意 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊張緩和の兆しか
  • 3
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 4
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 5
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 6
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRAN…
  • 7
    日本経済にとって、円高/円安はどちらが「お得」な…
  • 8
    ニュースでよく聞く「東京外国為替市場」は、実際は…
  • 9
    アメリカのストーカー対策、日本との違いを考える
  • 10
    親の遺産はもう当てにできない? ベビーブーム世代…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 7
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 8
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中