最新記事

ミャンマー

ロヒンギャが「次のパレスチナ人」になる日

2017年10月11日(水)17時00分
クレイグ・コンシダイン

ロヒンギャ問題に関する抗議行動がいくつものイスラム教国で起きていること自体、宗派を超える問題であることを示している。ロシア南部チェチェン共和国の首都グロズヌイでは、ロヒンギャとの団結を示すため数万のイスラム教徒が抗議行動を行った。テルアビブやジャカルタのミャンマー大使館前でも、大勢のイスラム教徒がデモを行っている。

世界中のイスラム教徒がロヒンギャの問題に心を痛めている一方で、イスラム教の宗教指導者や国家指導者の対応は十分とは言い難い。アラブ連盟も、イスラム諸国の国際機関であるイスラム協力機構も、緊急の会合を開いていない。

反応が全くないわけではない。イラン議会のアリ・モタハリ第2副議長はイスラム教国に対し、イスラム教徒主導の派遣軍を立ち上げ、ロヒンギャを救済するよう呼び掛けた。イランと対立するサウジアラビアは、「ウンマの指導者を自任する国として、残虐行為と人権侵害を非難する決議の採択を呼び掛けた」と、ツイッターで発信した。

だがこうした反応は、イスラム諸国の団結と同時に分断を示している。イスラムの各勢力が主導権をめぐって対立するなか、ミャンマーでの人道活動が過度に政治問題化されている。

webw171011-rohi02.jpg

かつて父祖の地を追われたパレスチナ人 Bettmann/GETTY IMAGES

トルコ政府当局者は、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領がミャンマーの国家顧問アウンサンスーチーと暴力について議論したという。トルコ当局はこの問題が国際的に、特に「イスラム世界」で懸念を集めているとしている。

サウジアラビア政府は、実際に国連安全保障理事会に働き掛けた。しかし批判派は、サウジアラビアがミャンマーと政治や経済面で深いつながりがあるために、ロヒンギャ問題に積極策を取っていないとみている。

クリスチャン・サイエンス・モニターは「サウジアラビアはミャンマーの石油インフラに数百万ドルを投資しており、ミャンマーを通る石油パイラインを使って中国に石油を提供し続けるつもりだ」と報じている。

実際には、サウジアラビアはロヒンギャへの支援策を強化している。サウジアラビアは近年、ミャンマーからイスラム教徒25万人を受け入れており、住居や教育、医療や雇用を無償で提供している。

ロヒンギャ問題が人々の感情に訴える理由の1つは、報道が偏向していると考えられていることだ。テロとして報じるのは犯人がイスラム教徒の場合だけと見なすイスラム教徒もいる。

米ジョージア州立大学のエリン・カーンズ率いるチームの調査でも、同様の結果が示された。調査によれば、暴力の加害者がイスラム教徒の場合のメディア報道は、加害者がイスラム教徒ではない場合に比べて約4.5倍に及んでいる。カーンズに言わせれば「イスラム教徒ではない加害者が同程度の注目を集めたければ、もう7人くらい殺さなくてはいけない」ことになる。

「パレスチナ人はテロリスト」という短絡的な見方も一般的だ。ロヒンギャの場合、ミャンマーは被害者のはずの彼らを「ベンガル人テロリスト」と、加害者として表現している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化

ビジネス

デジタルユーロ、大規模な混乱に備え必要=チポローネ

ビジネス

スウェーデン、食品の付加価値税を半減へ 景気刺激へ

ワールド

アングル:中ロとの連帯示すインド、冷え込むトランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中