最新記事

ミャンマー

ロヒンギャが「次のパレスチナ人」になる日

2017年10月11日(水)17時00分
クレイグ・コンシダイン

「ナクバ」再来を危惧

世界のイスラム社会にとっては、イスラム教徒が過半数を占める国と「欧米」は、民族浄化に加担こそしていなくても、あまりに長く沈黙しているように感じられる。

しかし注目すべきなのは、他の民族集団でも起きている同様の問題に、国際社会がほとんど目を向けていないことだ。例えば中国西部の新疆ウイグル自治区を拠点とし、チュルク語を話す少数民族ウイグルの問題だ。イスラム教徒が過半数を占めるウイグルは、社会的にも政治的にも迫害されている。

イスラム世界は中国の治安部隊が反ウイグルの暴力をあおっても、見て見ぬふりをしてきた。この理由については、イスラム世界の指導者たちが中国との魅力的な貿易関係を損ないたくない、あるいは自国の反体制派に対する姿勢に注目を集めたくないためだという指摘がある。

ロヒンギャとパレスチナ人の窮状は、宗派間の違いを超えた危機となっている。双方に対する迫害は、イエメンやイラク、シリアでの宗派対立では見られないイスラム世界の協力と団結につながっている。

ミャンマーの問題では世界中のイスラム教徒が平和と思いやりを求めて団結しており、その点ではシーア派もスンニ派も同じ気持ちだ。その一因はロヒンギャの問題が、イスラム世界を分断する宗派の違いという問題から遠く離れていることだろう。

慈悲や思いやり、正義を重んじるイスラムの教えは、無実の命が失われることがあってはならないと説く。コーランには「地上で悪を働いたという理由もなく人を殺す者は、全人類を殺したのと同じ。人の生命を救う者は、全人類の生命を救ったのと同じ」と書かれている。

だから世界中の何億というイスラム教徒は、人種や民族、宗教や国籍に関係なく、人命を尊重しているのだ。

しかしロヒンギャの窮状は、世界中のイスラム教徒にとって特別な感情を呼び覚ます問題だ。彼らは新たな「ナクバ」の到来を恐れている。

イスラム世界の指導者たちは行動に乗り出さない。そのため一般のイスラム教徒は、自分たちの手でナクバを阻止しようとしている――たとえ、もう遅過ぎるとしても。

From Foreign Policy Magazine

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年10月10日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-エヌビディア、対中輸出を2月に

ワールド

トランプ政権、大使ら約30人召還 「米国第一」徹底

ワールド

ウクライナ巡る米ロ協議、「画期的ではない」=ロシア

ビジネス

アルファベット、クリーンエネ企業買収 AI推進で電
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中