最新記事

日本

【調査報道】日本外交、3000億ドルのシリア復興特需に屈す

2017年9月21日(木)17時35分
深田政彦(本誌編集部)

首都ダマスカスの国際見本市は国を挙げての大イベント(8月) Omar Sanadiki-REUTERS

<アサド政権の勝機を見越して、インフラ再建の商機が高まるシリア。市場をにらむ日本企業、期待を膨らませる永田町、忖度する霞が関――取材で見えてきたのは、復興特需に翻弄される価値観なき日本外交の姿だった。ニューズウィーク日本版「対中国の『切り札』 インドの虚像」特集号(2017年9月26日号)掲載>

シリア内戦が始まって6年半。ロシアやイランの軍事介入でバシャル・アサド大統領が勢力を回復し、停戦の主導権を握りつつある。

停戦機運が高まるにつれて、ビジネスでは復興特需の争奪戦が始まっている。アサドが支配するシリア南部や西部には、紛争を逃れたビジネスマンやカネ、工場が集結。こうして活発化する経済を支えるべく、インフラ整備が急速に進んでいる。

内戦で壊滅したインフラを再建するには外資が欠かせない。現状では親アサドのロシアとイラン、中国がリードし、インドとブラジルがその後をうかがっている。だがそうした国だけでは、3000億ドル以上といわれる巨額の復興特需を資金的にも技術的にも賄い切れない。

その点で頼れるはずの欧米や湾岸諸国はアサドの退陣を要求しており、おいそれと参入できない。そんななか、アサド政権がそうした国際包囲網のほつれを見つけるかのように期待を寄せるのは──日本だ。

11年3月、平和的な反政府デモを武力で弾圧したアサド政権に対し、欧米は厳しかった。日本も同年8月に「一般市民に対する武力行使」を非難し、アサド退陣を要求。12年5月には駐日シリア大使を「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」として国外退去とした。安倍政権になってからも、首相自らアサドの退陣を訴えてきた。

長年にわたるアサド政権の残虐さをみれば非難は当然だ。市民を無差別空爆や化学兵器で攻撃し、都市封鎖で飢餓に追いやり、拉致や拷問もためらわない。死者は40万人を突破。国外に脱出した難民は516万人、国内避難民も630万人に達した。

その泥沼の中でロシアやイランの軍事援助を得たアサド政権は息を吹き返し、攻勢をいっそう強めている。最近の停戦機運はこうした容赦なさがもたらしたものだ。アサドの拠点である首都ダマスカスからは力強い復興のつち音が響き始めた。いつの間にか日本も、停戦を待たずに、ODAによる巨額のインフラ復興に着手している。

ダマスカスの日本人商人

シリア市場をにらむ日本企業、期待を膨らませる永田町、忖度する霞が関──取材で見えてきたのは、復興特需に翻弄される価値観なき日本外交の姿だ。

8月中旬、ダマスカスで国際見本市が開かれた。古来この地は北アフリカからペルシャ湾岸に至るネットワークを持つシリア商人が集い、貿易の中心地として発展した。国際見本市も半世紀以上の歴史を持つ大イベントだが、内戦によって長らく中止に追い込まれていた。

再開された見本市は、シリア当局が「勝利宣言の入り口」と宣言するように、世界に向けた強力なアピールだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え

ビジネス

焦点:米中貿易休戦、海外投資家の中国投資を促す効果
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 8
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中