最新記事

イスラム過激派

アルカイダがミャンマーに聖戦を宣言----ロヒンギャ迫害の報復で

2017年9月14日(木)16時00分
ジャック・ムーア

アルカイダの元指導者ウサマ・ビンラディン(右)殺害に抗議するパキスタンのイスラム主義者たち(2011年) Naseer Ahmed-REUTERS

<ISISの台頭で一時目立たなくなっていた9.11の首謀者アルカイダが動き出した。まずはイスラム教徒の少数民族ロヒンギャを迫害するミャンマーを攻撃して勢力拡大を狙う>

ミャンマー軍がイスラム系少数民族ロヒンギャの武装勢力に対し大規模な報復攻撃を行い、混乱が広がるなか、9.11米同時多発テロで悪名を馳せた国際テロ組織アルカイダが、不穏な動きをみせている。イスラム教徒のロヒンギャを迫害したミャンマー政府は当然の報いを受けることになると、警告を発した。ロヒンギャ危機を口実に攻撃を仕掛け、勢力範囲を拡大しようというのだ。

「ムスリムの同胞に対する残虐な処遇を......懲罰なしに看過するわけにはいかない。ミャンマー政府はムスリム同胞が味わった苦痛を味わうことになるだろう」――テロ組織のネット上での活動を監視する米SITE研究所によると、アルカイダは支持者にこう呼び掛けた。

テロ組織ISIS(自称イスラム国)がイラクとシリアで劣勢に追い込まれている今は、アルカイダにとっては勢力挽回のチャンス。新兵獲得も兼ねてロヒンギャ武装勢力への「軍事支援」を呼び掛けたとみられる。

【参考記事】ミャンマー軍のロヒンギャ弾圧に何もしない米トランプ政権

アルカイダの最強の系列組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」も今月に入って、ミャンマー政府を標的にした攻撃を呼び掛けている。

「バングラデシュ、インド、パキスタン、フィリピンで聖戦に参加するすべての兄弟たちに呼び掛ける。ムスリムの同胞を支援し、訓練など必要な準備を行って、この抑圧に抵抗するためビルマ(ミャンマー)に向かおう」

ミャンマー政府は、8月25日にロヒンギャの武装勢力が警察や軍の拠点を襲撃したことがきっかけで、軍による取り締まりを開始したと主張。ロヒンギャの村々に対する焼き討ちも「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」の仕業で、軍によるものではないと弁明している。

逃げた?スーチー

国連が9月初めに発表した推計によれば、8月末以降に隣国バングラデシュに避難したロヒンギャは5万8000人以上で、難民の多くは、軍の掃討作戦から逃れてきたと話している。

ミャンマーにいる約110万人のロヒンギャの大半は仏教徒が多数を占める西部ラカイン州に集中。彼らは市民権を付与されておらず、長年軍と治安部隊による迫害を訴えてきた。

ミャンマーの事実上の指導者で、ノーベル平和賞受賞者のアウンサンスーチー国家顧問兼外相は、ロヒンギャ問題への対応の鈍さで国際的に非難を浴びており、12日に開幕した国連総会への出席を直前になって取り止めた。

【参考記事】ロヒンギャ排斥の僧侶に説法禁止令、過激派抑止に本腰か

ゼイド・ラアド・アル・フセイン国連人権高等弁務官は11日、ジュネーブで始まった国連人権理事会の冒頭演説で、ミャンマーで起きている事態は「民族浄化の教科書的な典型例」だと糾弾した。ミャンマー政府は、取り締まりの対象は武装勢力で、民間人には危害を加えておらず、民族浄化は行われていないと主張している。

「人道に対する罪あるいは民族浄化という言葉は非常に重大な意味を含み、不用意に使うべきではない。法的な手続きを経て、罪が確定した場合にのみ用いるべきだ」――ミャンマーのティン・リン国連大使は理事会の場でこう述べ、不快感をあらわにした。

政府が何と言おうと、アルカイダは既に報復を呼び掛けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中