最新記事

少数民族

ミャンマー軍のロヒンギャ弾圧に何もしない米トランプ政権

2017年9月12日(火)21時50分
マーチン・ボールモント、ロビー・グレイマー

ミャンマーから隣国バングラデシュに逃れ、支援の食料に手を伸ばすロヒンギャ難民(9月9日) Danish Siddiqui-REUTERS

<民主化以前にはミャンマー軍政を厳しく監視してきた米政権が「民族浄化」を見て見ぬふり>

ミャンマー軍がイスラム系少数民族ロヒンギャに対する激しい弾圧を始めて以来、ここ数週間でロヒンギャ難民が爆発的に増え人道危機に発展しているが、今のところアメリカからはほとんど反応がない。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、ミャンマー軍とロヒンギャ武装勢力の衝突が激化するなか、すでに31万3000人近くのロヒンギャが隣国バングラデシュに脱出した。

ロヒンギャは難民になるだけでなく、数千人が命を落としている。国連は先週、ロヒンギャの死者数は1000人以上とした。一方バングラデシュのアブル・ハッサン・マームード・アリ外相は、3000人のロヒンギャが殺害された可能性があるとしたうえで、ミャンマー軍による攻撃はジェノサイド(大量虐殺)だと言った。国民の大多数を仏教徒が占めるミャンマーで、イスラム系のロヒンギャは迫害の対象となってきた。ゼイド・ラアド・アル・フセイン国連人権高等弁務官は9月11日、ロヒンギャが住む場所を追われ殺害されている状況は「民族浄化の典型例」だと言った。トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領も先週、ロヒンギャに対する迫害は民族浄化でありジェノサイドだと批判した。

【参考記事】存在さえ否定されたロヒンギャの迫害をスー・チーはなぜ黙って見ているのか

アメリカはこの人道危機の最中、ロヒンギャ弾圧に対する批判はミャンマー政府との関係を損なわない程度にする、という綱渡り外交を展開している。ミャンマーの脆い民主化を進展させたいからだ。

トランプもティラーソンも沈黙

米国務省はロヒンギャの人道危機に深い懸念を示すという代わり映えのない声明を発表したのみ。ドナルド・トランプ米大統領もレックス・ティラーソン米国務長官も、いまだに公の場でミャンマー政府を批判していない。ホワイトハウスのサラ・ハッカビー・サンダース報道官は11日の記者会見で、「ホワイトハウスはミャンマーで起きている人道危機を深く懸念している」と述べる一方、ミャンマー軍とロヒンギャ武装勢力の「双方」に対する暴力を懸念していると言った。

過去の米政権はトランプ政権と対照的に、ミャンマーの人権問題を厳しく監視する役割を担った。1988年にクーデターで軍事政権が発足すると、アメリカはミャンマーに対する金融サービスの提供の禁止や、軍事政権関係者の資産凍結などで経済的な締め付けを始めた。その後は投資禁止や輸入禁止といった経済制裁を長年にわたり継続した。

【参考記事】悪名高き軍がミャンマーで復活

「今の国務省は、トランプ政権が本来の役割を怠っている間に、人権擁護のふりだけを装おうとしているように見える」と、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのフィル・ロバートソンは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中