最新記事

人工知能

ストーリーの人気を予測し、クオリティを評価する人工知能をディズニーが開発

2017年8月31日(木)15時45分
松岡由希子

Benoit Tessier-REUTERS

<ウォルト・ディズニー・カンパニーの研究機関ディズニー・リサーチは、短編ストーリーの人気度を自動的に予測し、その質を評価する人工知能を開発。この分野の世界初の研究成果として話題>

ウォルト・ディズニー・カンパニーの研究機関であるディズニー・リサーチは、自動車や玄関ドアなどの物体の画像と"プップー"、"ガチャン"など、それぞれの物体に対応する音とを結びつける人工知能システムの開発や、映画に対する観客の反応を顔の表情から予測するディープ・ラーニング(深層学習)ソフトウェアの共同開発など、近年、人工知能に関する様々な研究開発に積極的に取り組んできた。

短編ストーリーの人気度を自動的に予測する人工知能

とりわけ、米マサチューセッツ大学ボストン校との共同研究プロジェクトにおいて開発された人工知能は、脳の神経細胞(ニューロン)とそのつながりを数式的なモデルで表現する「ニューラルネットワーク」により、短編ストーリーの人気度を自動的に予測し、その質を評価するというもので、この分野における世界初の研究成果として話題となっている。

この共同研究プロジェクトでは、一般ユーザーからの質問に他のユーザーが回答するQ&Aサイト「クオーラ」を使って、ストーリーの"人気度"を人工知能に理解させることから着手した。

具体的には、「クオーラ」に投稿された54,484件の回答を収集し、その中からストーリー仕立てとなっている28,320件を抽出。また、"人気度"をはかる基準として、良質だと思う回答をユーザー同士で投票し合う「クオーラ」のランク付けシステムを活用し、多くの読者を幅広く引きつけるストーリーの特性やパターンを学習させた。

さらに、断片的な部分のみで判断するのではなくストーリーの複雑な意味合いを理解したうえで"人気度"を予測できるよう、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により、それぞれの領域が相互に依存し合う人工知能と、ストーリー全体を総合的に捉えることができる人工知能を開発した。

これらの人工知能はいずれも、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)や長期・短期記憶(LSTM)ネットワークといった自然言語処理で一般的に使われている人工知能に比べて、読者から人気を集めそうなストーリーを予測する精度が高く、とりわけ、ストーリー全体を総合的に把握する人工知能では、RNNやLSTMネットワークによる人工知能よりも、予測精度が18.1%改善したという。

ストーリーの創作にも影響を及ぼす

この共同開発プロジェクトの成果について、ディズニー・リサーチのマルクス・グロス副社長は「ストーリーの質を予測する能力は、ストーリーの創作とその理解の双方に影響を及ぼす。質を評価するためには、ある程度、文章を理解することが求められるし、ストーリーの創作には、自分が書いているものの質を判断できることが必要だ」と述べている。

この研究成果は、人工知能が、ストーリーの良し悪しを評価するのみならず、質の高いストーリーそのものを創り出しうることを示す第一歩として、意義のあるものといえよう。

【参考記事】ウォール街を襲うAIリストラの嵐
【参考記事】AIを使えば、かなりの精度で自殺を予測できる

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

9月の米雇用、民間データで停滞示唆 FRBは利下げ

ビジネス

NY外為市場=ドルが対ユーロ・円で上昇、政府閉鎖の

ワールド

ハマスに米ガザ和平案の受け入れ促す、カタール・トル

ワールド

米のウクライナへのトマホーク供与の公算小=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中