最新記事

獣医学

犬も退屈は苦痛です──刺激が少ないと脳が縮むと研究結果

2017年8月30日(水)18時30分
松丸さとみ

damedeeso-iStock

<英王立獣医大学の調査で、退屈という感情は人間特有のものと思われていたが、動物も退屈を苦痛に感じ、ひどく退屈した犬の脳は、縮んでしまう危険性がある、と指摘した>

あくびや寝てばかりは退屈な証拠?

日がな一日、退屈そうに寝そべっている飼い犬を見て、「犬は気楽でいいよな〜」などと思ったことはないだろうか。実はそれ、犬にとっては「危機」かもしれない。ひどく退屈した犬の脳は、縮んでしまう危険性がある、と指摘する調査が学術誌「アニマル・ビヘイバー(動物の行動)」に掲載された。

調査を行ったのは、英王立獣医大学の上級講師シャーロット・バーン氏。英紙タイムズが伝えた。

バーン氏の調査チームは、家に残された犬の動きをカメラで観察した。たいていの犬は、あくびをしたり、吠えたり、遠吠えをしたり、クンクン鳴いたりしていたが、中には無気力にかなりの時間を寝て過ごす犬もいた。バーン氏によると、こうした様子は不安が原因になっている場合もあるが、多くは単にものすごく退屈しているためだという。

脳細胞が死んでいく

バーン氏は、「退屈という感情は人間特有のものと思われていたが、動物も退屈を苦痛に感じる」と言い、犬に限らず家畜や動物園の動物などは、刺激が少なすぎる環境にいると脳が縮んでしまう恐れがあると同氏は警告している。動物が刺激を受けない状態が長く続くと、脳の神経細胞(ニューロン)が死んでしまうため、そのような動物の脳は、シナプスが少なくサイズも小さい傾向にあるという。

しかしバーン氏は、動物が退屈するという側面について、これまであまり研究がなされていなかったと指摘。退屈というのは主観的なもので、直接測定したり判断したりすることが難しいが、動物の動きを観察したり、脳の活動を測定したりすることで、その動物が退屈しているか否かを判断できる、と述べている。

私たちも、退屈な状態がどれほどつらいか、経験したことがあるだろう。例えば飛行機で、エンターテイメント機器が故障した座席での長距離フライトなどは苦痛でしかない。

バーン氏は、人間の場合、刺激のない退屈な状態が長く続くと認知障害が起こるが、それは動物にも当てはまると指摘する。特に現代の家畜は、野原で草を食むというより、狭い小屋の中で育てられることが多く、退屈な状態から逃れられない環境で飼育されることになる。このような環境だと、動物に深刻な苦痛を与えることになるとバーン氏は主張している。「動物にとって刺激とは、人間同様、贅沢なことではなく必要なこと」と訴えている。

これからは、飼い犬が暇そうに大あくびをしていたら、散歩に連れ出したりボール投げをしたりするように気をつけると、いつまでも脳が元気な犬でいてくれるかもしれない。

【参考記事】「ホントは、マタタビよりもゴハンよりも人間が好き」――猫より
【参考記事】ウォンバットのうんちはなぜ四角いのか

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

プーチン氏、インドに燃料安定供給を確約 モディ首相

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、12月速報値は改善 物価

ワールド

米中が閣僚級電話会談、貿易・経済関係の発展促進で合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 4
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 5
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 6
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 10
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中