最新記事

ロシア

米国務省の人身売買リポートで浮上した「ロシアのアトランティス」

2017年7月12日(水)16時53分
トム・オコーナー

ロシア版アトランティスを舞台にしたリムスキー=コルサコフのオペラ Alexander Demianchuk-REUTERS

<毎年恒例の米人身売買リポートが槍玉に挙げたロシアの施設は数百年前に水没していた>

米国務省は「人身売買に関する報告書」で、人身売買の被害者やホームレスを保護する施設の支援をロシア政府がないがしろにしていると非難した。しかし、例として挙げられたロシアの施設の1つは、伝説でははるか昔から湖の底に沈んだ町にあることがわかった。

この報告書は、国務省が毎年刊行している。2017年版の発表にあたる6月27日には、レックス・ティラーソン国務長官やドナルド・トランプ大統領の長女で大統領補佐官を務めるイバンカ・トランプが出席する式典も開かれた。

444ページにわたる報告書には、各国の人身売買に関する状況について国務省の調査結果が詳細に記されている。なかでもロシアは、最も人身売買の状況が悪い国に分類されており、ロシア政府は人身売買の被害者を適切に保護していないとする。報告書の中で米国務省は、ロシア政府による対策の不備についてさまざまな具体例を挙げているが、その1つとして、キーテジという街にある、ロシア正教会が運営するホームレス保護施設に言及する。

報告書には以下のような文面がある。「ロシア正教会によって運営されているキーテジのホームレス保護施設は、人身売買被害者の受け入れを開始し、食事や寝泊まりする場所を提供しているものの、医療や心のケアは行っていない」

「ロシア政府はこの保護施設に経済的な援助を行っていない」と、国務省の報告は続けている。

トゥームレイダーの舞台にも

だが、キーテジは、ロシアの民間伝承の中にのみ存在する街。モククワ・タイムズ紙によると、「ロシア版アトランティス」とも形容されるこの街は、13世紀にとあるロシアの王子によって建造されたが、モンゴル帝国の侵攻によって存立の危機に直面したという。迫り来る敵に屈するよりはと、キーテジの住民たちは近くにあるスベトルイ・ヤール湖にこの街を沈めたと、伝説は伝えている。この湖は、ロシア中部に実在する。

この伝説を裏付け、実際に街が存在していたと立証するような考古学上の証拠はいまだ見つかっていないが、この幻の街は、国民音楽を含む文化の世界で数多くの作品に登場している。なかでも最も有名なのは、著名なロシア人作曲家、ニコライ・リムスキー=コルサコフ作で1907年に初演されたオペラ「見えざる町キーテジと聖女フェブローニャの物語」だろう。

キーテジの伝説は西側の作品でも取り上げられてきた。例えば、ドイツ人映画監督、ベルナー・ヘルツォークが1993年に発表したドキュメンタリー映画『地底からの鐘の音:ロシアにおける信仰と迷信』や、スクウェア・エニックスのアクション・アドベンチャーゲーム「ライズ・オブ・ザ・トゥームレイダー」などがある。

「米国務省のリポートは、ロシア当局がキーテジの保護施設への支援を怠ったとしたが、キーテジは数百年前に水没したとされる伝説の町
今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国での宗教活動に台湾人が参加、昨年は1万人以上=

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、高市新政権への期待感

ワールド

印首相、ASEANはオンライン参加 通商交渉で米と

ビジネス

金融システムは安定性を維持、貸出市場の仲介活動も円
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 7
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 8
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 9
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中