最新記事

中国

劉暁波は大陸に残ったがゆえに永遠に発信し続ける----習近平には脅威

2017年7月14日(金)18時15分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

2002年にニューヨークにあるMirror Books(明鏡出版社)が中国語で『中共壮大之謎――被掩蓋的中国抗日戦争真相』(中共が強大化した謎――覆い隠された中国抗日戦争の真相)(謝幼田著)を出版したので、彼はそれを読み、胡耀邦がスピーチで言った言葉の具体的な内容を知ったのだろう。中国の言論弾圧の出発点はここにある。

習近平政権には脅威――その死を以て発信し続ける劉暁波

胡耀邦も劉暁波も、中共の歴史の真相を知っていた。

そして自らの命を懸け、最後まで中共統制下の大陸に踏み止まり、その死を以て発信し続ける劉暁波氏のこのたびの一連の出来事は、習近平政権にとっては大きな脅威となろう。

EU(欧州連合)のトゥスク大統領とユンケル欧州委員長は共同声明で中国政府の対応を非難し、「中国におけるもっとも卓越した人権の擁護者に一人だった」と劉暁波氏を讃え、言論弾圧により獄中にいるすべての民主活動家を解放すべきだと中国政府に要求した。

ノーベル委員会も13日に声明を出し、中国の対応を非難した。

あのトランプ大統領でさえ劉暁波を「民主主義の自由の追求のために人生を捧げて勇気ある活動家」と礼賛し、ティラーソン国務長官はさらに劉暁波氏の妻・劉霞氏の受け入れを表明している。

劉暁波氏にノーベル平和賞を授与したことで中国との関係が悪化し経済制裁を受けていたノルウェーのソルベルグ首相だけは唯一、中国政府の対応に対し一切、言及しない形で中国政府への非難を避けた。EUやノーベル委員会は、その姿勢を批判した。

こういった国際社会の声は、習近平には大きな脅威となるだろう。

国内でいくら言論弾圧を強化しても、国際社会は黙っていない。

習近平が、毛沢東の化身を装って弱まっていく中国共産党への敬意を復活させようとしても、それは失敗に終わるだろう。

日本は?

そのような中で、日本はどうだろうか?

日本は、劉暁波存命中に、遂に救いの手を差し伸べる声明を出す道を選ぶことができなかった。筆者は人権派弁護士等から、飛行時間が短く医療レベルも高い日本が劉暁波を受け入れてくれるといいのだがというメールを受けていたが、それを発信する前に事態が動き、そのチャンスを逸したことを残念に思う。

彼らは今では、ドイツ・ハンブルグのG20での日中首脳会談で、安倍首相が日本のパンダの誕生を例にとって「中国政府流の日中友好」を強化していくよう懇願し中国の顔色ばかりを見ているとして、日本への期待を捨ててしまった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用

ワールド

ダライ・ラマ、「一介の仏教僧」として使命に注力 9

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中