最新記事

中国

劉暁波は大陸に残ったがゆえに永遠に発信し続ける----習近平には脅威

2017年7月14日(金)18時15分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

オスロのノーベル平和センターの前で  NTB Scanpix/Audun Braastad/REUTERS

劉暁波が逝ってしまった。しかし彼は中国に残り続けたがゆえに永遠に民主活動家たちを導き続け、発信し続ける。中国とはどのような国かを世界に知らしめ、国際社会を目覚めさせ、習近平に大きな脅威を与えるだろう。

中国の民主活動家には二つの道がある

天安門事件のときもそうだったが、その後の多くの中国大陸の民主活動家には二つの道がある。一つはアメリカなど、西側諸国に亡命することであり、もう一つは中国大陸に踏みとどまり抵抗し続けることだ。

前者は、割合に容易だ。海外亡命に成功すれば、そこで「逮捕されない」日々が送れる。但し、亡命が成功した時点で、国際社会の注目度は一気に下がる。そこが終点なのだ。さらに亡命先の国で、果たして日々の糧を得る生活手段が得られるか否かも問題となる。

特にアメリカのワシントンD.C.には中国からの亡命民主活動家が集中している。

その中には正職を得て、自立的に自らの生活を支えながら中国の民主化のために闘いつづけている人もいるが、中には英語の習得がうまくいかず路頭に迷う人もいる。必ずしもアメリカ政府がいつまでも亡命民主活動家の生活まで支援し続けるわけではないから、中には「金が入る道」を選んで、なんと、中国政府の「五毛党」(わずかなお金をもらって中国政府のために発言する人たち)に身を落す者さえいるのだ。中国政府はそれらの落伍者を信じているわけではないが、最大限に利用し、民主活動家らの内部情報を得る手段にはしている。そして五毛党の中にはリッチになっていく人が少数いて、亡命者に対して魅力を与えて誘い込む仕掛けを中国政府は創りあげている。

劉暁波氏は亡命の道を選ばなかった。

周りから亡命を勧められたが断り続けてきた。それは中国共産党の統制下で「平和的手段」を用いて言論弾圧に真っ向から抵抗し理念を貫き通すことによって、中国の民主化を追い求める勇士たちを励まし続けていたいと願ったからである。また、その手段の方が、中共政府に打撃を与えうるだろうと判断したからである。

劉暁波氏の決断は正しかったと思う。

彼は大陸に踏みとどまることによって、彼の理念を貫き通し、今後も発信し続ける存在となるだろう。

なお、劉暁波氏が最後に「西側諸国で治療を受けたい」と言い始めたのは、あくまでも妻の劉霞さんの抑うつ症が悪化したため、軟禁を解いて西側諸国で治療を受けさせたいと願ったからだと、民主活動家たちは教えてくれた。

中国はなぜ言論弾圧をするようになったのか

そもそも中国はなぜ、言論弾圧をするようになったのだろうか。

もちろん独裁国家においては政府を批判する言論は許されない。しかし中国にはそれ以外に重要な原因がある。それは日中戦争中に中国共産党が強大化する過程で、毛沢東が日本軍と手を結び、日本軍とは戦わないようにしながら、庶民には「日本軍と戦っているのは中共軍だ」と宣伝してきたからである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、追浜と湘南の2工場閉鎖で調整 海外はメキシコ

ワールド

トランプ減税法案、下院予算委で否決 共和党一部議員

ワールド

米国債、ムーディーズが最上位から格下げ ホワイトハ

ワールド

アングル:トランプ米大統領のAI推進、低所得者層へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    大手ブランドが私たちを「プラスチック中毒」にした…
  • 5
    宇宙の「禁断領域」で奇跡的に生き残った「極寒惑星…
  • 6
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 7
    配達先の玄関で排泄、女ドライバーがクビに...炎上・…
  • 8
    MEGUMIが私財を投じて国際イベントを主催した訳...「…
  • 9
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 10
    戦車「爆破」の瞬間も...ロシア軍格納庫を襲うドロー…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 8
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 7
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中