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「投資は科学」とは対極の投資哲学を掲げる資産運用会社

[新井和宏]鎌倉投信株式会社 取締役 資産運用部長

2017年6月29日(木)16時15分
WORKSIGHT

Photo: WORKSIGHT

<一般に投資では勝ち負けが重視されるが、「いい会社を応援すること」を目的とする資産運用会社がある。一体、投資先企業とどう付き合い、何を目指しているのか。鎌倉投信の資産運用部長、新井和宏氏が語る「まごころの投資」>

鎌倉投信では「いい会社をふやしましょう!」を合言葉に、「結い 2101(ゆい にいいちぜろいち)」という公募の投資信託を運用・販売しています。人と人、世代と世代 を"結"び、次世紀の"2101年"に向けて、いい会社をみんなで創造したいという想いを込めてこの名前をつけました。

投資のリターンは「資産形成×社会形成×こころの形成」

「いい会社」とは、これからの日本に必要とされる会社です。業種や業態、上場か非上場か、規模が大きいか小さいか、歴史があるかないかなどは関係ありません。株主や経営者だけが利益を得る会社ではなく、従業員とその家族、取引先、顧客、地域社会、自然環境、株主といったさまざまなステークホルダーの利益を調和した上で成長し、持続的で豊かな社会を醸成できる会社です。社会性と事業性を両立できる会社ともいえるでしょう。

「結い 2101」が投資している「いい会社」は現在60社です。

投資ではよく勝ち負けが重視されますが、私たちの目的はいい会社を応援すること。ですから、「結い 2101」全体の投資である程度の収益性を確保できれば、一部を、社会的に価値のある事業に取組みながらも目先の資金繰りが窮屈なソーシャルベンチャー企業へ投資することも可能です。また、鎌倉投信がつなぎ役として間に入ることで、大企業とソーシャルベンチャーが関係性を深め、事業が発展することもあります。ソーシャルベンチャーは社会価値創造のノウハウを伝えることで大企業に刺激を与えたり、大企業が営業面でベンチャーを支援したりして、相互に社会的価値を高められれば、お互いがメリットを得られますよね。社会全体にそうしたいい循環をもたらすことができるわけです。

鎌倉投信では投資で得られるリターンを「資産形成×社会形成×こころの形成」と考えています。こころの形成とは、投資をしたことで社会形成に寄与し、真の満足が得られているということです。利益だけを追い求めても、幸せを感じられなかったら意味がないでしょう。3つの要素のどれが欠けてもその投資は成功とはいえないのです。

そして、投資の果実を最大化するために必要なことが「いい会社」を見定めることであり、そのために必要なのが「まごころ」なんです。

「投資は科学」という哲学では、出会えなかった「いい会社」

私は国内外の金融機関で長く働いてきましたが、前職の外資系金融機関の投資哲学は「投資は科学である」でした。全ての投資先を数値に置き換えて判断する金融工学を駆使した運用をおこなっていたのです。まごころと対極ですよね。でも、例えば社長も社員もみんなで朝から掃除をするような会社が地域で愛され、成長していく実例があることを知り、「投資は科学」という投資哲学の下では、決して出会うことのできない「いい会社」の存在に衝撃を受けました。

ファンドマネジャーとして数兆円のお金を運用するストレスから体を壊したことや、世界の金融業界を揺るがしたリーマンショックに遭遇したことも重なった結果、世の中には数値化できないものもあり、そこに人は共鳴し、経営が成り立ち、組織を強くするのだと思いいたりました。そうして生まれたのが「投資はまごころである」という投資哲学です。

投資先企業の応援団になるために、会社がやろうとしていること、それが社会にどんな価値をもたらすか、そこに共感できるかどうかをまずは見定める。投資するかどうかを決めるのはその後という順番が大事なんです。

投資先企業とは面倒なコミュニケーションが欠かせない

目に見えないものを見定めるには、投資先候補の企業の方に自社の課題も優位性もすべて正直に打ち明けてもらわなくてはいけません。それにはまず、私たちがまごころで接しなくてはならないのです。

例えば、候補企業の社長さんにお会いするときは、たいてい決算短信を見せられるんですが、それよりも会社が何のために存在しているのか、社会に何をもたらしたいのか、社員にどう関わっているのかをじっくり聞きたいと申し上げます。すると、じゃあこちらも正直に課題を話そうという気になってくださるんですね。そうやって化粧なしで胸襟を開いてもらうことが僕らには何より重要なんです。

ただし、投資先企業となれ合いになるつもりもありません。私たちは「もの言う投資家」ではありませんが、その会社が「いい会社」でない部分があったときは改善をお願いします。法令違反があったとか、お客さんをないがしろにしたとか、そういうことですね。クレーム対応でいい会社になれるかどうかが決まります。ですから、「クレームは宝」だという姿勢でこちらと対話に応じていただけないのなら私たちは投資しません。

鎌倉投信と付き合うのは面倒なんです(笑)。でも、面倒なコミュニケーションが大事だと思っているし、誠実に向き合ってくれるなら私たちもできる限り応援します。投資先企業とはそういう関係なんですね。

社会でその会社が誠実な商売をしたり社会貢献したりして存在感を発揮できれば社会的価値が上がりますし、私たちが「この会社はいい会社です、だから応援しています」と世の中に訴えれば、それもまた会社のブランディングに寄与するでしょう。鎌倉投信が高めたいのは企業の財務的価値というより、社会的価値なんですね。それがひいては企業価値を上げることにつながると信じているからです。

【参考記事】「エゴを持たない」食材宅配サービスのスタートアップ

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