最新記事

法からのぞく日本社会

民泊新法の目的は、東京五輪対策ではなく地方活性化!?

2017年6月23日(金)19時21分
長嶺超輝(ライター)

「年間180日」上限と自治体ごとのルールの違いがネックに

ただ、これで東京五輪対策が盤石かというと、そうとも言い切れない。

民泊新法によって、自分が所有する部屋を民泊として貸し出せるのは「年間180日」という上限が設けられた。既存のホテル業界との兼ね合いで、民泊事業が外国人観光客を奪いすぎないよう、全体のバランスを取る趣旨である。もし年間180日を超える民泊を行えば、旅館業法違反として処罰の対象となる。

出張などで不在にすることが多い部屋を民泊用に他人に貸し出すぶんには、年間180日もあれば十分だが、民泊事業を割の良い不動産賃貸として投資目的で利用しているオーナーは、撤退を余儀なくされるかもしれない。

たとえば、家賃10万円の部屋を1泊5000円で民泊に提供すれば、30日間フル回転できたとして月5万円の粗利が生まれる。ただ、年間の半分以下しか民泊に提供できないのなら、宿泊料を相当引き上げない限り、事業として成り立たなくなってしまうからだ。もちろん、宿泊料を上げれば集客に苦しむリスクも伴う。

もともと、どのような人が地域に出入りするのかを読み切れない民泊への抵抗感が根強い自治体も各地にある。「おもてなし」という建前と、「漠然とした不安」という本音が交錯しているのであろう。

実際、国が昨年、簡易宿所のフロント設置義務を撤廃した後も、東京都台東区など、依然として条例でフロント設置義務を課している自治体は少なくないし、長野県軽井沢町に至っては、町内全域で民泊施設の設置を認めないと明言している。

国の方針とは別に、地域の情勢を加味して、それぞれの自治体が独自にルールを作れることは、地方自治の核心であり、それ自体に問題はない。

ただ、東京都心における民泊への賛否の濃淡が自治体によってまちまちであれば、民泊事業者はルールを把握して遵守することを敬遠するだろうし、国の設定した「180日ルール」を守っていれば、民泊専用の投資物件は経営的に厳しくなる。結果として、今後も「違法民泊」を黙認しない限り、外国人観光客の宿泊需要に対応しきれない事態にもなりかねない。

地方には民泊に活用できる空き家・空き別荘がたくさんある

だとすれば、民泊新法は東京五輪対策というより、むしろ、空き家や空き別荘が休眠している地方を活性化させる目的で作られたものと考えるべきではないか。

ニッセイ基礎研究所のレポートによれば、空き家は数としては大都市圏が多いものの、2008~2013年の増加率をみると地方でも高い県がみられる。地方では特に一戸建ての空き家の増加傾向が顕著で、中部や中国、九州などでその傾向が強いようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、米労働関連指標を見極め

ビジネス

米11月求人件数、14カ月ぶり低水準 労働需要の減

ビジネス

米国株式市場=S&P500反落、金融株に売り AI

ワールド

トランプ氏の一般教書演説、2月24日の見通し 下院
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 5
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 6
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 7
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが…
  • 8
    公開されたエプスタイン疑惑の写真に「元大統領」が…
  • 9
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 10
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 10
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中