最新記事

法からのぞく日本社会

民泊新法の目的は、東京五輪対策ではなく地方活性化!?

2017年6月23日(金)19時21分
長嶺超輝(ライター)

Yue_-iStock.

<2020年の五輪開催を控え、宿泊施設不足が深刻な東京。このたび民泊の規制緩和を可能にする新法が成立したが、その目的は五輪と関係ないところにありそうだ>

6月9日、住宅宿泊事業法(民泊新法)が成立した。これは一体、何を目的とした法律なのか。そして日本の民泊はこの新法でどう変わるのだろうか。

くだんの新法は、冒頭でその「目的」を語っている。


◆住宅宿泊事業法 第1条(目的)
この法律は、我が国における観光旅客の宿泊をめぐる状況に鑑み、住宅宿泊事業を営む者に係る届出制度並びに住宅宿泊管理業を営む者及び住宅宿泊仲介業を営む者に係る登録制度を設ける等の措置を講ずることにより、これらの事業を営む者の業務の適正な運営を確保しつつ、国内外からの観光旅客の宿泊に対する需要に的確に対応してこれらの者の来訪及び滞在を促進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の発展に寄与することを目的とする。

このタイミングでできた法律であるのだから、やはり東京五輪の開催に伴い、首都圏で高まる「宿泊に対する需要」に応えたいのだろうか。

「観光立国」を目指す日本は、東京五輪が行われる2020年までに年間4000万人の外国人観光客の誘致を目指している。実際、2012年まで年間数百万人単位で推移してきた訪日観光客数が、2016年には2400万人以上に跳ね上がっており、目標達成も現実味を帯びてきている。

このような外国人観光客の急増を「第二の開国」と呼ぶのも、あながち大げさな表現ではなさそうだ。

【参考記事】東京は泊まりやすい? 一番の不満は「値段」じゃなかった
【参考記事】日本「民泊」新時代の幕開け、でも儲かるのは中国企業だけ?

そこで懸念されるのが、宿泊先の不足である。3年後に五輪開催を控える都内では特に、高級ホテルからビジネスホテルまで建設が急ピッチで進められているが、より多様な客層を取り込むべく、リーズナブルな料金で泊まれる施設も確保しておかなければならない。

そうした事情を背景に、自分の所有・管理している部屋を有償で貸し出す「民泊」への注目が高まっているわけだが、今までは民泊を行う場合、東京都大田区などの民泊特区でない限り、旅館業法の「簡易宿所」として都道府県知事の許可を得る必要があった。

簡易宿所はホテルに準ずる位置づけなので、フロントを設置する義務が課されている。普通のマンションの一室を貸し出すような民泊では、物理的にも人手の面でもフロントを置くのはハードルが高く、現実的ではないとされていた。

そこで、国は昨年、簡易宿所のフロント設置義務を原則的に廃止。事実上の民泊規制の緩和であり、このたびの民泊新法の布石でもあった。

新法成立により、今までは特区でしか認められなかった民泊事業が、来年から全国で解禁される。ワンルームマンションや少人数向けで人気のAirbnbや、一軒家や別荘、多人数向けに強みがあるHomeAwayなど、民泊仲介事業も本格的に加速していくことになる。

【参考記事】東京五輪まであと4年、「民泊」ルールはどうする?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

良品計画、25年8月期の営業益予想を700億円へ上

ビジネス

良品計画、8月31日の株主に1対2の株式分割

ワールド

中国、タイ・カンボジア国境紛争解決に協力も 「公正

ビジネス

午後3時のドルは146円後半へ上昇、トランプ関税で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 10
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中