最新記事

アフリカ

紛争鉱物の規制を撤廃? アメリカの強欲がアフリカで新たな虐殺を生む

2017年6月9日(金)18時27分
コナー・ギャフィー

コンゴ東部の採掘現場でスズ鉱石を洗う労働者(2012年) Jonny Hogg-REUTERS

<アフリカで武装勢力の資金源になっている鉱物資源の売買を規制する決まりがなくなれば、最悪の紛争が帰ってくるかもしれない>

中部アフリカ諸国で産出され、武装勢力の資金源になっている「紛争鉱物」を規制する国際社会の動きに逆行しようとしている国がある。ドナルド・トランプ大統領のアメリカだ。

もし米政府が企業に紛争鉱物の売買を規制する現行の法律を廃止すれば、アフリカ中部の資源国で紛争や汚職が拡大する恐れがあると、米上院議員や人権団体は警鐘を鳴らしている。

2010年にバラク・オバマ前米大統領の政権下で成立した金融規制改革法(ドッド・フランク法)に定められた紛争鉱物の条項は、米企業が製造した製品にコンゴ民主共和国(旧ザイール)で調達した紛争鉱物が含まれているか否かについて、企業側に開示義務を課す。

【参考記事】世界一高価で血に濡れたコンゴの「紛争パスポート」

中部アフリカ諸国には、希少で高付加価値の鉱物が豊富に眠っている。国連の推計によれば、そうした鉱物の埋蔵量は24兆ドル相当に上る。

1998~2003年におびただしい数の住民が犠牲になった第2次コンゴ紛争も、主戦場となったコンゴ東部はスマートフォンやパソコンなどの電子機器に使われる希少金属タンタルを含む鉱石コルタンの産地だった。

【参考記事】コンゴ「武器としての性暴力」と闘う医師に学ぶこと

資源があっても荒廃したまま

米証券取引委員会(SEC)のマイケル・ピオワー委員長代行は今年4月、コンゴや周辺諸国で採掘や調達した紛争鉱物を、米企業が自社製品に使用していないことを調査・報告する義務はもう課さないと表明した。

これに対し、民主党のクリス・クーンズ上院議員は、5人の上院議員と連名で、SECに現行の紛争鉱物に関する流通規制を維持するよう求める書簡を提出。クーンズはAP通信の取材に対し、現行法はコンゴの鉱物産地で紛争をなくすのに重要な役割を果たしている、と語った。

【参考記事】「血のダイヤ」取引解禁でムガベ高笑い

コンゴでは、世界で最も多い200万人の労働者が鉱山で働く。だがいくら天然資源に恵まれても、経済成長には結びついていない。国連開発計画が発表した2016年度の人間開発指数(HDI)で、コンゴは188カ国中176位だった。数百万人の国民が20年以上続く紛争で故郷を追われ、全土が絶対的なインフラ不足に苦しんでいるのもその一因だ。

1998年に始まった第2次コンゴ紛争は、隣国のルワンダとウガンダの支援を受けたコンゴ東部の反政府武装勢力が、首都キンシャサで政権転覆を図ったことから勃発。周辺国を巻き込む民族対立で事態が紛争に発展。第2次大戦後に起きた戦争で最悪の540万人以上の死者を出し、「アフリカの世界大戦」と呼ばれた。当時、紛争で武装勢力の資金源になったのが、コンゴ東部で産出される紛争鉱物だ。

コンゴ中部のカサイ州では、昨年政府軍が部族勢力の指導者カムイナ・ンサプを殺害して以降、政府側と部族勢力の民兵組織による激しい衝突が続いている。住民130万人が非難を余儀なくされ、少なくとも400人が死亡した。3月には人権侵害に関する調査をしていた国連専門家2人が拉致され、その後遺体で発見された。

トランプ好みの規制緩和

アメリカが紛争鉱物の流通規制を敷いたことにより、「採掘現場で武装勢力の活動が激減し、武力行使に及ぶ能力を大幅に後退」させる効果があったと、東コンゴのゴマに本部があるコンゴの人権団体、反奴隷シビル・ソサエティ連合協会の会長を務めるレオナルド・ビエールはAP通信に語った。

SECと同様、共和党は金融規制改革法を抜本的に見直す構え。そうなれば、紛争鉱物に関する規制そのものが撤廃されるだろう。産業の規制緩和に熱心なトランプの、満面の笑みが目に浮かぶようだ。

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.6万件増、継続受給は24年5

ワールド

NATO、対イラン作戦で米要請に対応 当初支援遅れ

ビジネス

米卸売在庫、2月は0.8%増 13カ月ぶりの高い伸

ワールド

ホルムズ海峡利用料徴収は「危険な前例」、国際海事機
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポケモンが脳の発達や病気の治療に役立つかも
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 5
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 6
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 7
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 10
    「嬉しすぎる」アルテミスII打ち上げのNASA管制室、…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 9
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 10
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 9
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中