最新記事

BOOKS

バブル期に「空前の好景気」の恩恵を受けた人はどれだけいた?

2017年6月6日(火)16時01分
印南敦史(作家、書評家)

重箱の隅をつつくようだが、たとえばこれは真実とはかけ離れている気がする。というのも私自身、小学校高学年から中学生にあたる1970年代半ばあたりに、どこかの雑誌で「合コン」「合ハイ」の存在を知って衝撃を受けたのだ。

そのとき、「大学生って、みんなでハイキングに行くとか、そんなつまらないことをしているのか! そんなの、ちっともおもしろくないじゃん!」と強烈なインパクトを受けたのではっきりと記憶しているのである。

まぁ、どうでもいいことといえばそれまでだが、資料としての雑誌をあたるだけでは、このようなことになっても不思議ではないということだ。

とはいえ、(矛盾しているように思われるかもしれないが)「よく調べてある」こともまた事実ではある。雑誌の記事を表層的になぞっているだけでなく、奥の奥まで探っていることがわかるのだ。そのため、そこかしこに説得力が生まれている。それが、本書の不思議なところだ。いい例が、仕事に対する若者の意識を取り上げた部分である。


 当時の就職を控えた大学生は、仕事に対してどのような意識を持っていたのか。『読売新聞』1989年8月6日付では、人材派遣会社のテンポラリーセンターによるアンケート結果を紹介している。これによれば、会社を選ぶとき重視することは、男女とも「仕事内容」が1位で、男子32%、女子28%。2位は男子が「実力が発揮できる職場」(22%)、女子が「職場の雰囲気」(26%)だった。そして、「ハードでもやりがいのある仕事」か「楽で負担の少ない仕事」どちらを選ぶかという問いでは、男子では100%、女子でも96%が前者を選んでいる。
 この結果から見えてくるのは、ハードでもやりがいのある仕事が得られれば、内面的な満足を得ることができるという確信の存在だ。物質的な満足は後から着いてくる(原文ママ)であろう安心感がこの時代の常識だったのである。だからこそ、より仕事に打ち込むことで自己実現しようとする意志が、強く働いていたのだ。こうした意識こそがバブル時代の経済を支えていたといえる。(167ページより)


 ただ、景気がよくなって給料が多少あがっても、一般のサラリーマンは「金持ちになった」という感覚を得られてはいなかった。一部の業種では、経費が潤沢かつ、多忙であるために給料は使うことなく、経費だけで生活をしているような者もいた。だが、あくまで一部である。つまり、当時の実感としては、忙しくて給料も入ってくるけど、接待やらなにやらで長時間拘束されるので使う暇もないという者。かたや、イマイチ恩恵を受けていない者もいたのである。(171ページより)

「イマイチ恩恵を受けていない者」であった私は、ここにきてようやく納得できる部分に出合えた。しかし、それはともかく、読み進めながらずっと頭から離れないことがあった。「本書は誰に向け、なんのために書かれているのだろうか?」ということだ。

雑誌の情報をもとに書かれているのであれば、先に指摘したとおり誤解も生まれるし、当時を生きた人間にはあまり響くとも思えない。かたや現代の若者にとっても、どこか絵空事のように映ってしまうのではないかということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

核保有国の軍拡で世界は新たな脅威の時代に、国際平和

ワールド

米政権、スペースXとの契約見直し トランプ・マスク

ワールド

インド機墜落事故、米当局が現地調査 遺体身元確認作

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、円安で買い優勢 前週末の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中