最新記事

投資の基礎知識

重要なのに情報が少ない、「利益確定」は株式投資の盲点

2017年6月5日(月)18時41分
高野 譲 ※株の窓口より転載

Siphotography-iStock.

<「損失と利益の決定」を自分でしなければならないのが投資の難しさ。利益確定について考えていない人が多いが、損切りと同じように、自動で行える仕組みを作ればいい>

みなさんは、いろいろな書籍やウェブサイトなどで投資やトレードの勉強をしているでしょう。それらの指南書には一貫して「損切り」のルールに関する記述があり、それを厳格に守らなければ勝ち組にはなれない、とされています。その一方で、「利益確定」についての情報は、ほとんどないに等しいのではないでしょうか。

投資仲間との会話でも「儲かったね」「どこかで好きに利食いしなよ」などと、含み益が生じた途端に「あとはご自由に」と気を抜いてしまう場面が多く、どうやって利食いするかについて考慮しないのが典型的なパターンになっています。

しかしながら、いかなる投資も利益水準の決定が先決であり、この決定なくして投資は始まらない!と私は考えています。

なぜ利益確定は難しいのか

株式投資の盲点「ペイアウト倍率」

宝くじや競馬やカジノなどの賭け事には「ペイアウト倍率」というものがあります。

たとえば、ペイアウト倍率2倍のルーレットゲームに1000円を賭けたとします。もしあなたが勝てば、掛け金の2倍の2000円(利益は1000円)が手に入り、負ければ1000円を失います。つまり、プレーする前から「1000円の利益」か「1000円の損失」が確定しているのです。

これは大切なことで、そもそも「勝ったら1000円もらえる」という保証がなければ、誰もルーレットゲームに手を出さないでしょう。

株式投資の世界でも同じことが言えます。厳格なルールのもとに「損失と利益の決定」をしなければ、株式投資は始まらないのです。これは、株式投資だけでなく他の金融商品にも当てはまる、投資における盲点だと思います。

ただし、株式投資における「損失と利益の決定(ペイアウト倍率の決定)」は、自分自身で行わなければなりません。これが、株式投資について「なんだか難しい」「なぜかうまくいかない」という違和感を覚える要因と言えるかもしれません。

リスクを避けてしまう本能とは

利益と損失を自分自身で決定することが、なぜこれほどまでに難しいのでしょうか? あらかじめ胴元に決められた範囲でしか儲けられない賭け事と違って、自分で利益幅を決められるのですから、もっと大胆に勝負に出ることがあってもいいはずです。

そうならないのは、人間がもっている本能が作用しているからです。私たち人間には「平和になるほどリスクを取らない」という性質があります。つまり、平和になればなるほど自分自身に対する規制が厳しくなり、リスクの芽を早々に摘んでしまう心理が働くのです。

この「平和になるとリスクの芽を早々に摘んでしまう心理」が、含み益のある建玉を損になる前に早く決済してしまう行為を生んでいます。みなさんも、買った株に利益が乗ると(損になることへの恐れから)急いで決済してしまう癖がありませんか?

この原理について行動経済学の研究からわかったことは、「自分に有利な場面ではリスクを避けて、自分に不利な場面ではリスクを取ることを好む」という人間の本能が作用しているということです。

つまり、少しでも利益が出ればリスクを避けて決済し、反対に損失が出てしまったときには、「そのうち戻ってくるはず......」という願望からリスクを取って待ち続けてしまうのです。これが、いわゆる「利小損大(利益は小さくて損失は大きい)」に陥る要因なのです。

【参考記事】知っておきたい、インサイダー取引になる場合・ならない場合

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

クーグラー元FRB理事、辞任前に倫理規定に抵触する

ビジネス

米ヘッジファンド、7─9月期にマグニフィセント7へ

ワールド

アングル:気候変動で加速する浸食被害、バングラ住民

ビジネス

アングル:「ハリー・ポッター」を見いだした編集者に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中