最新記事

雇用

「新卒求む」が違法に!? アメリカの採用活動に新たな規制か

2017年4月24日(月)18時22分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部 

portishead1-iStock.

<中高年の応募者が「年齢差別された」とPwCを提訴。人種や性別による差別に厳しいアメリカで、解雇時ではなく採用時の「年齢差別」を禁じる動きが出てきている>

人種や性別による差別に厳しいアメリカは、「年齢差別」にも容赦がない。現在係争中の裁判次第では、若者に特化した採用方針は中高年者に対する差別として禁じられる可能性さえある。すなわち、新卒者に限定した採用が違法になるということだ。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、問題の裁判は大手会計事務所のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)を相手取って起こされたもの。

昨年、新人向けの求人に応募した53歳と47歳の男性が、採用選考からふるい落とされたのは自分たちの年齢のせいだとしてサンフランシスコの連邦裁に訴えを起こした。彼らの主張によれば、PwCは「ミレニアル世代を惹きつけるために、40歳以上の応募者を意図的に排除しており......この世代から雇用機会を奪っている」というのだ。

ロイターによれば、2011年時点でPwCで働く人の平均年齢は27歳で、全従業員の3分の2が20代~30代前半だった。米労働統計局のデータではアメリカの会計士と監査人の平均年齢が43歳であることを考えると、たしかにPwCの顔ぶれは若いと言える。

原告側が根拠にしているのは、年齢による待遇上の差別を禁じる連邦法「雇用における年齢差別禁止法(ADEA)」だ。1967年に立法化されたADEAは、「40歳以上の」中高年者に対する雇用上の差別を禁止している。

とはいえ、ウォール・ストリート・ジャーナルが指摘するように、アメリカでは解雇された従業員が「年齢差別」を訴えること自体は珍しい話ではない。今回の訴訟で新しい点は、"採用段階"で40歳以上を排除したとして訴えていることだ。

調査報道機関プロパブリカによると、PwC側が「ADEAは採用希望者には適応されない」と主張しているのに対し、政府機関の雇用機会均等委員会は一貫して「ADEAは採用希望者と従業員の両方に適応される」という立場をとってきた。しかし現実は、ADEAが採用希望者に適応されるかどうかはグレーゾーンのままだ。

現在、最高裁はRJレイノルズ・タバコを相手取った同様の集団訴訟を審理するかを検討しており、近く審理が開始されれば、「採用上の年齢差別」の是非について新しい結論が出されるかもしれない。

通年採用のアメリカでも企業は「若者」好き

今回の訴訟で注目されるのは、採用者の「若者びいき」に待ったをかけられるのかどうか、だ。

アメリカには日本のような「新卒一括採用」というシステムはなく、基本は通年採用だ。ポジションが空いたときに募集する仕組みだが、雇用機会均等委員会は、採用基準に「大学生」や「新卒者」「若者」などと書くことはADEAに違反するとの立場を示してきた。

とはいえアメリカでも、新卒者をターゲットにした採用活動はおなじみの光景だ。特にテクノロジー業界は1980年~1990年代に生まれた「ミレニアル世代」をターゲットにする傾向にあり、フェイスブックも2013年には弁護士枠の採用基準に「(ロースクール)07年卒か08年卒が望ましい」と掲げていたことをカリフォルニア州当局に問題視された

【参考記事】未婚男性の「不幸」感が突出して高い日本社会

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は小反落で寄り付く、利益確定売りが上値抑制

ワールド

グリーンランドは「安全保障に必要」、トランプ氏が特

ビジネス

ペルツ氏のトライアンの連合、アクティブ運用ジャナス

ワールド

米当局、中国DJIなど外国製ドローンの新規承認禁止
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中