最新記事

二国家解決

中東和平交渉は後退するのか──トランプ発言が意味するもの

2017年3月9日(木)17時30分
錦田愛子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授)

Baz Ratner- REUTERS

<親イスラエルとみられているトランプ大統領のもと、イスラエル・パレスチナ紛争はイスラエルに有利な方向に向けて、本当に動き出すのか。これまでの流れを踏まえ、考える>

「二国家でも一国家でも、当事者同士が満足であれば私はどちらでもいい」――2月15日の共同記者会見で発表されたネタニヤフ首相の初訪米でのトランプ発言は、予想外の展開として大きな注目を集めた。これまでの歴代アメリカ政権が支持してきた、パレスチナとイスラエルの二国家共存、すなわち二国家解決が、今後は交渉の前提とはされないとの立場が示されたからだ。

他の政策におけるトランプ大統領自身の強硬姿勢とあいまって、この発言はオバマ政権時代からの転換姿勢を示し、中東和平の後退につながるのでは、との懸念が示されている。親イスラエルとみられているトランプ大統領のもと、イスラエル・パレスチナ紛争はイスラエルに有利な方向に向けて、本当に動き出すのか。これまでの流れを踏まえ、考えてみたい。

規定路線としての「二国家解決」

アメリカのみならず、国際社会もまた二国家解決を中東和平交渉の原則とみなしてきた。会見の後、国連のグテーレス事務総長は、訪問先のカイロで会見し「パレスチナ人とイスラエル人の状況には二国家解決しかなく、他に代替案はない」と述べた。エジプトのスィースィー大統領とヨルダンのアブドゥッラー国王もまた、二国家解決が望ましいとの立場を改めて表明している。これらは外交の規定路線が、今後は踏襲されない可能性に対する懸念とみることができるだろう。

だがその心配は、まだ杞憂ともいえるかもしれない。トランプ大統領の発言をよく確認すると、二国家解決を支持するとも支持しないとも、どちらの立場も明確には示されていないからだ。積極的に二国家解決を否定したとはいえず、入植地問題[前回の記事を参照]と同様、判断は留保されたとみるのが妥当だろう。アメリカの中東政策が大きく変化した、とはまだ判断できない。

そもそも二国家解決案はいつから規定路線となったのか。イスラエル建国直後、パレスチナ側を代表する抵抗運動組織のパレスチナ解放機構(PLO)は、占領されたパレスチナ全土の解放を目指していた。それが断念され、PLOがイスラエル国家の存在を認めるに至ったのは、建国から40年を経た1988年のことだった。これを受けて初めて、アメリカはPLOとの外交交渉を開始した。

そして1993年にオスロ合意が結ばれると、PLOとイスラエルは相互承認を果たし、二国家解決を枠組みとした和平交渉が始まることになる。予定された交渉期限内に合意ができず、交渉は一度中断するものの、2003年にはアメリカ、ロシア、国連、EUから成る中東和平カルテットにより「ロードマップ」が発表された。二国家解決はその中でも規定路線と確認され、その後のアメリカを仲介とする交渉の前提となった。

重要なのは、この二国家解決を前提とした枠組み自体が、パレスチナ政治の中でファタハ政権の正統性の裏づけとなっているという点だ。二国家という前提は、イスラエルに対する和平交渉の相手方をパレスチナ側に必要とした。任期がとうに切れ、ファタハ内部でも支持を失っているアッバース大統領がまだその地位を維持できるのは、オスロ合意でその役割を引き受けたファタハの代表として、国際社会とイスラエルが彼をまだ必要としているからに他ならない。イスラエルとの対話を拒否するハマースでは、交渉の相手方とならないからだ。

ニュース速報

ワールド

スウェーデン、国内旅行制限を13日解除 専門家は感

ビジネス

ECB緊急債券購入、独仏などが小幅増額を提案=関係

ワールド

天安門事件から31年、大規模集会禁止の香港で追悼行

ビジネス

フィンランド、EUコロナ復興基金案を拒否 倹約4カ

MAGAZINE

特集:検証 日本モデル

2020-6・ 9号(6/ 2発売)

日本のやり方は正しかったのか? 感染対策の効果を感染症専門家と考える

人気ランキング

  • 1

    街に繰り出したカワウソの受難 高級魚アロワナを食べたら...

  • 2

    東京都、新型コロナウイルス新規感染28人 4日連続で2桁台

  • 3

    【世論調査】アメリカ人の過半数が米軍による暴動鎮圧を支持

  • 4

    トランプの着々と進む「戦争」準備、ワシントン一帯…

  • 5

    着物は手が届かない美術品か、海外製のインクジェッ…

  • 6

    世界最速の座から転落 「上海リニア」もはや無用の長…

  • 7

    日本不買運動で韓国人が改めて思い知らされること

  • 8

    ドイツで知名度をあげたウイルス学者は、コロナ予防…

  • 9

    横領、虐待...「ナヌムの家」慰安婦被害者の施設で起…

  • 10

    RIP木村花 ネットの悪質コメント、日米韓それぞれの…

  • 1

    街に繰り出したカワウソの受難 高級魚アロワナを食べたら...

  • 2

    ロンドンより東京の方が、新型コロナ拡大の条件は揃っているはずだった

  • 3

    「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に

  • 4

    レストランで騒ぐ息子が店員に叱られた話、FBに投稿…

  • 5

    ギター人気復活を導く「スーパークール」な和製ギター

  • 6

    韓国総選挙にデジタル不正疑惑か? 中国から開票機…

  • 7

    西浦×國井 対談「日本のコロナ対策は過剰だったのか」

  • 8

    「NO JAPAN」に揺れた韓国へ「股」をかけて活躍した日…

  • 9

    韓国、アイドルファンも抗議デモ 愛すればこそ、裏切…

  • 10

    ブラジルのコロナ無策は高齢者減らしのため?

  • 1

    「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に

  • 2

    金正恩「死んだふり」の裏で進んでいた秘密作戦

  • 3

    スズメバチが生きたままカマキリに食べられる動画が、アメリカでバズる理由

  • 4

    気味が悪いくらいそっくり......新型コロナを予言し…

  • 5

    過激演出で話題のドラマ、子役2人が問題行動で炎上 …

  • 6

    日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいってい…

  • 7

    コロナ独自路線のスウェーデン、死者3000人突破に当…

  • 8

    ロックダウンは必要なかった? 「外出禁止は感染抑…

  • 9

    コロナ禍で露呈した「意識低い系」日本人

  • 10

    「イギリスが香港のために立ち上がらないことこそ危…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2020年6月
  • 2020年5月
  • 2020年4月
  • 2020年3月
  • 2020年2月
  • 2020年1月