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部下を潰しながら出世する「クラッシャー上司」の実態

2017年2月13日(月)20時40分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<「俺はね、五人潰して役員になったんだよ」――新書『クラッシャー上司』の著者は医学博士。ショッキングなエピソードを列挙し、その行動パターンや考え方、対処法を明かす>

クラッシャー上司――平気で部下を追い詰める人たち 』(松崎一葉著、PHP新書)は、なにかと話題に上る機会も多い「クラッシャー上司」の実態を明かし、その行動パターンや考え方などを検証した新書。医学博士である著者は、インパクトのあるこの名称の名づけ親のひとりでもある。

ところでクラッシャー上司とは、どのような存在なのだろうか? 多くの人が感じているであろうこの問題については、「はじめに」に登場するエピソードを紹介するのがいちばん早いだろう。少し長いが、引用してみよう。


 今から十五年ほど前のこと。
 さまざまな組織でメンタルヘルス不全の治療・予防システム構築に取り組んでいた私たちは、とある大手の広告代理店に招かれた。その会社の経営幹部が言うには、働きすぎで心を病む社員の問題に悩んでいるとのこと。そこで抜本的解決策を共に考えてもらいたいと、産業精神医学を専門とする私たちが呼ばれたのである。
 ところが、対策チームを組んで同社に赴くと、ちっとも歓迎されている感じがしない。声をかけてくれた経営幹部以外の、お偉いさん方の顔つきが険しいのだ。話がまったく生産的な方へ向かわず、それどころか常務からこんなことを言われてしまった。
「メンタルなんてやめてくれよ」
 にわかに意味が取れないでいると、常務は続けてこう言った。
「俺はね、五人潰して役員になったんだよ」
 そして、私たちはこう告げられた。
「先生方にメンタルヘルスがどうの、ワークライフバランスがどうのなんてやられると、うちの競争力が落ちるんだ。会社のためにならない。帰ってくれ」
 あまりにもはっきり拒まれて、あ然とするばかりだったが、考えてみればずいぶんな扱いを受けたものだ。「ああいう会社は長続きしないね」とこぼしながら帰った。
 私の中で「クラッシャー」の概念が生まれたのは、あの出来事からだった。(3~4ページ「はじめに」より)

非常にわかりやすい......というよりもショッキングなエピソードではないだろうか? なお著者によれば「クラッシャー上司」は、「部下を精神的に潰しながら、どんどん出世していく人」と定義づけることができるのだそうだ。

部下は心を病んで脱落していくのに、「クラッシャー上司」自身の業績は社内でもトップクラスであることがほとんど。だから会社は、問題性に気づいたとしても処分できず、結果的にクラッシャーは次々と部下を潰しながらどんどん出世してしまうというのである。

しかも著者は、多くの会社や組織のメンタルヘルスを見てきた経験値として、一部上場企業の役員のうち数人に「クラッシャー上司」がいると感じているのだそうだ。


 クラッシャー上司は、自分の部下を潰して出世していく。
 そういう働き方、生き方に疑問を持たないどころか、自分のやっていることは善であるという確信すら抱いている者たちである。
 そして、潰れていく部下に対する罪悪感がない。精神的に参っている相手の気持ちがわからない。他人に共感することができない。
 自分は善であるという確信。
 他人への共感性の欠如。
 この二つのポイントは、どんなクラッシャー上司にも見て取れる特徴だ。(20ページより)

【参考記事】企業という「神」に選ばれなかった「下流中年」の現実

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