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貿易戦争より怖い「一帯一路」の未来

2017年1月31日(火)10時00分
ジョシュア・アイゼンマン(テキサス大学オースティン校准教授)、デビン・スチュワート(カーネギー国際問題倫理評議会プログラムディレクター)

Asim Hafeez-Bloomberg/GETTY IMAGES

<トランプの対中政策より先行きが見えない、新シルクロード構想に山積するリスク>(写真:アラビア海に面したグワダル港の建設と運営も中国がリードする)

 ドナルド・トランプの大統領就任で、米中関係はにわかに先が読めなくなった。トランプはTPP(環太平洋経済連携協定)からの脱退を宣言し、東アジアでの中国の影響力が増すかどうかに注目が集まっている。

 しかし関心を向けるべきなのは、「シルクロード経済ベルト」と「21世紀の海上シルクロード」から成る「一帯一路」と呼ばれる外交構想だろう。13年に習近平(シー・チンピン)国家主席の肝煎りでスタートした1兆ドル規模の一帯一路は、中国といくつもの国々に大きな期待を持たせる一方で、落とし穴にはまる可能性を秘めている。

 一帯一路は、グローバリゼーションの次のステージを中国が主導しようとする構想。中国以西のユーラシア諸国に経済ベルトを、東南アジア、南アジア、中東、アフリカには海上ルートを築く21世紀版のシルクロードだ。その目的は受け入れ国の産業や生産能力を向上させるというよりは、港湾、鉄道、通信、電力、パイプラインなどによる輸送とエネルギー網を拡大し、強化する点にある。

 中国が目指すのは、減速した経済を短期・中期的には一帯一路上の国々での建設や通信の契約、機械・装置の提供で、長期的には新しい貿易ルートを利用したそれらの国々への中国製品の輸出で刺激することだ。

 外国のインフラ整備に融資し、そのプロジェクトを中国企業が手掛ける。これは友好国づくりの巧みな戦術だ。しかしこのアプローチには中国だけでなく受け入れ側にも重大な経済的・政治的なリスクをもたらす。中国の融資額は数千億ドル。経済刺激に失敗したり、受け入れ側にデメリットばかりもたらせば、最悪の事態になりかねない。

【参考記事】<ダボス会議>中国が自由経済圏の救世主という不条理

「貸し倒れ」の起きる兆し

 中国は過去20年間、国有企業や通信事業企業を使ってアジアやアフリカ諸国に積極的に進出してきた。しかし一帯一路によってひどくリスクの多い新局面を迎えている。
 
 中国政府は、国家開発銀行やシルクロード基金を通して緩やかな条件で1兆ドル近くを約60の途上国に融資。そこで約900件に上るインフラ整備計画を実行しようとしているが、ここにきて中国の経済成長の鈍化と米中貿易戦争が起こる可能性への懸念から、この一帯一路を迅速に推し進めなければならないというプレッシャーが高まった。

 問題はリスクの詳細な調査・分析だ。融資先の中には返済が可能か、あるいは返済する気があるか分からない国々がある。しかも一帯一路は次第に大型化しており、規制、言語、文化が異なる国々でのプロジェクトを精査するには大勢のスタッフが必要だ。

 この作業には多くの官庁や国有企業を含めた政府間の協調が必要だが、そうした機関はリスク分析の重要性を理解していない。中国の中央政府はこうした準備不足から、一帯一路の計画の多くを地方政府に委ねているが、こちらも融資の採算性を判断する能力はない。しかも一帯一路の地域には多くのイスラム国家があるので、宗教問題も気掛かりだ。

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