最新記事

世界経済

【ダボス会議】中国が自由経済圏の救世主という不条理

2017年1月18日(水)19時07分
エミリー・タムキン

中国の最高指導者として初めてダボス会議に出席するためスイスを訪れた習近平 Laurent Gillieron-REUTERS

<リーダーぶる資格は中国にはないが、トランプの保護主義でアメリカが縮む今、グローバル・エリートが頼れる大国は他にない>

 中国国家主席で中国共産党総書記の習近平は火曜、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で基調演説をした。中国の最高指導者がダボス会議に出席するのは初めてだが、そのブランクをものともせず、グローバル化や世界経済秩序の最大の支持者として存在感を見せつけた。

 保護主義のドナルド・トランプ次期米大統領とは対極の自由を訴えた習は世界最大の共産党の指導者であるにも関わらず、世界中から集まった「グローバルエリート」に歓迎された。アメリカの政治リスク専門のコンサルティング会社、ユーラシア・グループのイアン・ブレマー社長は「演説は大成功」とツイッターに投稿し、後でこう付け加えた。「世界の自由貿易のリーダーが中国とは、資本主義はピンチだ #ダボス」

【参考記事】世界経済に巨大トランプ・リスク

 英金融調査会社HISマークイットのナリマン・ベフラベシュ首席エコノミストは、「習国家主席は非常に緻密かつ正確な言葉でグローバル化を擁護した」と評価。スウェーデンのカール・ビルト元首相もツイッターに投稿した。「グローバル経済のリーダーは空席で、習近平は明らかにその後釜を狙っている。今回も少し目的を達成した」

中国が唯一のグローバルパワー

 習の演説は、米大統領選でドナルド・トランプが勝利して以来、わき上がったテーマの延長線上にある。中国の国営メディアはトランプに対し、駆け出しの指導者は既存の国際秩序を擁護すべきで、弱体化させるべきでないと警告してきた。だが、数十年も人権や市場原理といった世界秩序のしがらみに苛立ってきた中国がこう指摘すること自体、皮肉だらけだ。

【参考記事】TPPを潰すアメリカをアジアはもう信じない

 それでも習は、まるでそんな批判は承知のうえだったかのように、演説でこう述べた。「中国は可能性と秩序のある投資環境を用意していく。外国人の投資家による中国市場へのアクセスを拡大し、高度で実験的な自由貿易圏を作る。知的財産権の保護を強化し、中国市場をもっと透明化してより良い規制を敷き、安定した経済活動を行なえる土壌を整える」

 貿易に目を向けると、中国に拠点を置く外国企業は様々な規制にさらされ、市場へのアクセスも不足しているうえ、中国企業との合弁や技術共有なども義務づけられる。またEUとアメリカはこれまで何度、中国をダンピングでWTO(世界貿易機関)提訴したかわからない。中国は、輸出大国であると同時に保護主義大国でもあるわけだ。

 それでも、トランプが自由貿易支持に転じない限り、世界貿易に影響力を行使できるグローバルパワーは中国だけだ。

【参考記事】トランプの経済政策は、アメリカだけが得をする「歪んだグローバリズム」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエル・イラン停戦支持 核合意再交渉

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、短期的な過熱感で利益確定

ビジネス

サウジ政府系ファンドPIF、24年決算は60%減益

ワールド

米制裁法案、実施ならウクライナ和平努力に影響=ロシ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 6
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中