最新記事

行動遺伝学

「知能が遺伝する」という事実に、私たちはどう向き合うべきか?

2017年1月5日(木)12時20分
山路達也

iStock

<行動遺伝学の研究によって、「知能は遺伝する」ことが明らかになってきました。そして、収入に与える遺伝の影響は、歳を取るほど大きくなる...。私たちはこのショッキングな事実とどうやって向き合うべきなのでしょうか?>

 体格や運動能力が遺伝することを何となく受け入れている私たちですが、頭の善し悪しが遺伝すると語るのはどうもタブーになっているようです。

「頑張って勉強さえすれば、誰でも同じように頭はよくなる」

 学校の先生や親はそう言いますが、「行動遺伝学」によって、あらゆる能力のだいたい50%は遺伝によって説明できることがわかってきました。

 ならば勉強することはムダなのでしょうか? 才能は遺伝ですべて決まるのでしょうか? 英才教育に効果はあるのでしょうか? 収入と遺伝に関係はあるのでしょうか?

 行動遺伝学の第一人者、安藤寿康教授の最新刊『日本人の9割が知らない遺伝の真実』では、遺伝にまつわる俗説を解きほぐしつつ、個人としてまた社会として遺伝にどうやって向き合うべきかを明らかにしています。

 ここでは、本書のエッセンスをお届けしましょう。


『日本人の9割が知らない遺伝の真実』
 安藤寿康 著 SB新書

【参考記事】「遺伝」という言葉の誤解を解こう――行動遺伝学者 安藤寿康教授に聞く

才能の半分以上は遺伝で説明されることがわかった

 行動遺伝学とは、知能や性格などがどのように遺伝していくのかを調べる学問です。その中心となる手法が「双生児法」。天然のクローン人間である一卵性双生児と、二卵性双生児の類似性を比較し、遺伝と環境の影響率を算出します。

 安藤教授らの研究プロジェクトでは、18年間総数1万組の双生児ペアについて、知能・学力や性格、精神疾患や発達障害などを調査しました。その結果、神経質、外向性、開拓性、同調性、勤勉性といった性格については30〜50%が遺伝で説明できることがわかりました。また知能については70%以上、学力は50〜60%程度が遺伝で説明されました。

 双生児法を用いた行動遺伝学研究はいまや世界各国で膨大な研究の蓄積があり、音楽や執筆、数学、スポーツに関しては遺伝の寄与率は80%にもなるという報告もあります。

 さらに驚くべきことに、子どもの頃の知能やアルコール、タバコの物質依存など一部の形質を除くと、性格や能力など人間の行動や心理的な側面に共有環境(家族のメンバーを似させようとする環境で、おもに家庭や親による環境)の影響はほとんど見られないこともわかったのです。

 誤解されやすいのですが、遺伝が影響するといってもそれは親の特徴がそのまま子どもに受け継がれるということではありません。子どもは父と母それぞれから半分ずつ遺伝子を受け継ぐのですが、個々の形質については多数の遺伝子が関わっているため、親とまったく同じ特徴を持った子どもが生まれることは極めてまれです。遺伝とは、生まれたときに配られたトランプの手札のようなものと考えればわかりやすいでしょう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

訂正-日経平均は小反落で寄り付く、米市場休場で手控

ワールド

ルラ大統領、再選へ立候補示唆 現職史上最高齢で健康

ワールド

米テキサス洪水死者78人に、子ども28人犠牲 トラ

ビジネス

6月末の外貨準備高1兆3137億ドル、前月末比15
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中