最新記事

政治指導者

独裁者からポピュリストへ「反知性」が世界を導く

2016年12月14日(水)11時00分
楊海英(本誌コラムニスト)

Edgard Garrido-REUTERS

<カリスマ性の源は思想から暴言に代わった。既存体制への反発が生んだ混乱の行方は>(写真:カストロをしのぶキューバ国民〔首都ハバナ〕)

 11月25日、キューバのカストロ前国家評議会議長が死去した。くしくも60年前に亡命先のメキシコから82人の同志と祖国に向かい、ヨット「グランマ」号に乗り込んだ節目の日。盟友エルネスト・チェ・ゲバラらと武力で政権を奪取して世界を驚かせたカストロは、社会主義の指導者らしく、長期にわたる独裁政権を樹立して、今日に至った。

 カストロの逝去をもって、20世紀の共産主義独裁政治家の総退陣とみていいだろう。地球の約半分が真っ赤に染まっていた時代、社会主義の創始者の1人だったソ連のヨシフ・スターリンの死後は、中国の毛沢東が国際共産主義陣営のボスを自任。世界に革命を輸出して、内政干渉を行った。毛の周りにはアルバニアのエンベル・ホッジャや北朝鮮の金日成(キム・イルソン)、それにアラブ社会主義の指導者たちが走馬灯のように訪れては消えていった。

 今でこそ「イスラム過激主義」などと言って中東が語られるが、忘れてはならないのはこうした過激思想が同じく反西洋思想を持つアラブ社会主義の陰に隠されていたことだ。50年代以降、エジプトのナセル大統領はソ連をモデルに「非資本主義の道」を歩むと宣言。彼と権力を争った同じくアラブ社会主義のバース党は60年代にイラクとシリアで政権掌握に成功。サダム・フセインとハフェズ・アサドという二大独裁者を生んだ。

【参考記事】カストロの功罪は、死してなおキューバの人々を翻弄する

 アルジェリアは62年に独立してから極端な集団化経済政策を打ち出し、リビアのカダフィ大佐は「イスラムに社会主義の改革」をもたらそうと奮闘した。

 そんな独裁者らの空想に反して、社会主義経済は疲弊し切っていた。特に毛が天国のマルクスに会いに行った76年以降、弱体化が加速。それから15年でソ連が崩壊した。

 さらにとどめを刺すかのようにアメリカがフセインの「大量破壊兵器」を見つけると称して03年に派兵し、中東の暴力の「パンドラの箱」を開けた。殺害された独裁者らが社会主義の看板の下で隠してきた反西洋・反キリスト教の思想はテロという形で噴火して今日に至る。そして、歴史の皮肉を味わう暇もなく、ポピュリスト政治家らが台頭した。

 ポピュリスト政治家の筆頭はドナルド・トランプ次期米大統領だろう。同様に大衆扇動の手法にたけているのはフィリピンのドゥテルテ大統領と中国の習近平(シー・チンピン)国家主席だ。非論理的な暴言が人々の心の奥に潜む反知性の琴線に触れて混乱を呼ぶ。そうした反知性の姿勢もまた、既存の体制やイデオロギーに対する反発だろう。ポピュリスト政治家の誕生を促したのは、ほかでもないわれわれ全体だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ停戦合意至らす トランプ氏「非

ワールド

アングル:欧州への不法移民20%減少、対策強化でも

ワールド

トランプ氏「今すぐ検討必要ない」、中国への2次関税

ワールド

プーチン氏との会談は「10点満点」、トランプ大統領
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 5
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 7
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中