最新記事

メディア

偽ニュース、小児性愛、ヒラリー、銃撃...ピザゲートとは何か

2016年12月8日(木)06時10分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

Jonathan Ernst-REUTERS

<首都ワシントンのピザ店が小児性愛と児童売春の拠点になっており、ヒラリー・クリントンがそれに関わっている――「ピザゲート」と呼ばれる陰謀論だ。偽ニュースによりネット上で広まったこの陰謀論は、リアルな銃撃事件へと発展した> (写真は銃撃事件の舞台となったワシントンのピザ店「コメット・ピンポン」)

 ネットに飛び交う「偽ニュース(フェイクニュース)」が11月の米大統領選の結果を歪めた――そんな議論が交わされている最中に、フェイクからリアルへ、今度は銃犯罪が起こった。舞台は首都ワシントンのとあるレストランだ。

【参考記事】ネットに広がる「フェイク・ニュース」― 嘘と真実の見分け方とは

 報道によれば、ノースカロライナ州に住むエドガー・ウェルチ容疑者(28)が4日の午後3時頃、家族連れで賑わっていたワシントンのピザ店「コメット・ピンポン」にライフル銃を持って押し入り、警察に逮捕された。銃は他にも2丁所持しており(1丁は車の中)、ニューヨーク・タイムズによれば、少なくとも1度、店内で発砲している。

 ウェルチ容疑者は警察の調べに対し、ネットで広まっていた「ピザゲート」を自ら確かめるつもりだったと供述。幸いにも負傷者は出なかったが、偽ニュースが銃撃事件にまで発展したと、大きく報じられている。

 ピザゲートとは何か。この「コメット・ピンポン」というピザ店が、小児性愛者の巣窟、児童売春組織の拠点となっており、そこには大統領選でドナルド・トランプ候補に敗れたヒラリー・クリントン前国務長官とその選対責任者が関わっている――という"スキャンダル"だ。店のオーナーのジェームズ・アレファンティスは熱心な民主党支持者で、クリントンの資金集めにも協力していたとされる。

 このスキャンダルについて、米主流メディアはことごとく「真実ではない」「デマだ」と結論づけている。被害者はおらず、捜査も行われていない。それなのに、この1カ月半ほどの間にネットで爆発的に広まった。大統領選でクリントンが敗れた後に、である。

4chan+ウィキリークスで陰謀論に発展

 経緯はこうだ。投票日直前の10月末、クリントンが国務長官時代に私用メールアドレスを公務に使っていた問題で、FBIのジェームズ・コミー長官が、調査すべき新たなメールが見つかったと発表した。ワシントン・ポストによれば、その後、そのメールが「小児性愛者グループと関連しており、その中心にヒラリー・クリントンがいる」という内容を、何者かがツイッターに投稿し、6000回以上リツイートされた。

 この噂は匿名掲示版サイトの4chan(日本の「2ちゃん」に相当)やソーシャルニュースサイトのRedditで広まり、一方で、インフォウォーズという名の極右サイトでも、クリントンを罵倒する記事や動画が繰り返し掲載されたと、ワシントン・ポストは報じる。11月4日には、インフォウォーズの番組司会者が「ヒラリー・クリントンが自ら殺し、切り刻み、レイプした子供たちのことを思うと、彼女に立ち向かうことに恐れなどない......この真実はこれ以上隠せない」などと語る動画がYouTubeに上げられている。

 そこに投下された"燃料"が、内部告発サイトのウィキリークスが次々に公表していた、クリントン陣営の選対責任者ジョン・ポデスタの流出メールだった。その流出メールの中で、ピザ店「コメット・ピンポン」の名が挙がっていたようだ。

 材料は揃った。その後、4chanのユーザーたちが「ネット検索で見つけたという『関連事実』や、憶測を次々と投稿し始めた......(コメット・ピンポンの)店の壁に飾られた現代美術の画像を漁っては子供の写真を見つけだし」、いつしか「ピザゲート」という陰謀論が生成されていったと、BBCは伝えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米FBI長官にパテル氏を指名、トランプ氏に忠実な元

ワールド

トランプ氏「非常に生産的」、加首相と国境・貿易・エ

ビジネス

アングル:スマホアプリが主戦場、変わる米国の年末商

ビジネス

焦点:不法移民送還に軍動員へ、トランプ氏の構想は法
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で17番目」
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    白昼のビーチに「クラスター子弾の雨」が降る瞬間...クリミアで数百人の海水浴客が逃げ惑う緊迫映像
  • 4
    「すぐ消える」という説明を信じて女性が入れた「最…
  • 5
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 6
    ロシア・クルスク州の軍用空港にウクライナがミサイ…
  • 7
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 8
    LED化を超える省エネ、ウェルビーイング推進...パナ…
  • 9
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 10
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 1
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 4
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていた…
  • 5
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 6
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブル切断は中国船の破壊工作か
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中