最新記事

メルケル

トランプ新政権と水と油の政策方針 メルケル独首相に最大の試練

2016年11月16日(水)11時27分

 11月14日、米大統領選でのトランプ氏勝利は世界中の米同盟国に衝撃を与えたが、中でも最大の痛撃を感じているのはドイツだろう。写真はメルケル独首相。ベルリンで撮影(2016年 ロイター/Axel Schmidt)

 米大統領選でのトランプ氏勝利は世界中の米同盟国に衝撃を与えたが、中でも最大の痛撃を感じているのはドイツだろう。メルケル首相の下、今や「開放(openness)と寛容(tolerance)」の要塞を自認する国だからだ。

 トランプ氏が大統領に就くと、メルケル首相が重視している課題のほぼすべてにおいて、米国はドイツの同盟国から敵国に転じる公算が大きい。侵略行為を行うロシアとの対峙、自由貿易の推進、気候変動対策、シリア難民問題といった課題だ。

 トランプ氏は選挙期間中、対立候補のヒラリー・クリントン氏を「米国のメルケル」と呼び、数十万人の移民を受け入れたメルケル首相の決断を「正気ではない」と断じた。

 つまりトランプ氏の勝利は欧州最強の指導者、メルケル氏個人にも打撃をもたらした。同氏は来年秋の首相選に出馬して4期目を目指すかどうか、間もなく発表する時期にさしかかっている。

 側近らによると、トランプ氏勝利と英国民投票での欧州連合(EU)離脱派勝利は、危機に立ち向かい続けるメルケル首相の決意をかえって強めた。

「欧州、欧州域外で難題が待ち構えている以上、彼女はあっさり逃げ去ったりしない。そんなことをすればみっともない限りだ。彼女には責任感がある」と、ある側近は語る。

 ドイツと米国の関係は、ジョージ・W・ブッシュ前米大統領の下で米軍がイラクに侵攻して以来冷えていたが、2008年のオバマ大統領の選出で絆を修復した。

 オバマ大統領はドイツで、ジョン・F・ケネディ元米大統領の後継者のごとくに歓迎された。ケネディ氏と言えば、ベルリンの壁が建設された2年後の1963年に同地を訪れ、ドイツ語で「私はベルリン市民だ」と語って市民を勇気付けた人物。メルケル首相と緊密な関係を結んできたオバマ氏は今週ベルリンを訪れ、ほろ苦い別れを告げることになる。

 南ドイツ新聞は先週、トランプ氏がジャケットをはだけ、胸に描かれた「私はベルリン市民ではない」というメッセージを見せる風刺画を掲載した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米下院、イスラエルへの武器供給再開法案を可決 成立

ビジネス

米UPS、年金運用をゴールドマンに委託 434億ド

ワールド

南ア、イスラエルのラファ攻撃「阻止する必要」 国際

ビジネス

マイクロソフト、中国の一部従業員に国外転勤を提示
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中