最新記事

メルケル

トランプ新政権と水と油の政策方針 メルケル独首相に最大の試練

2016年11月16日(水)11時27分


挑発的メッセージ

 しかし、そんなことでメルケル首相はたじろがないだろう。首相は小さな一歩を大切にする冷静な現実主義者であり、ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領といった剛腕政治家と対話を積み重ねてきた。

 それでも、トランプ氏が大統領選で勝利した後にメルケル首相が発表した声明は強烈だった。協力に条件を付ける内容で、民主的に選ばれた指導者に対して同盟国から挑発的なメッセージを送った格好だ。

「ドイツと米国は、民主主義、自由、法の尊重、人間の尊厳といった価値観で結ばれている。これは出自、肌の色、宗教、性別、性的志向、政治観を問わない。米国の次期大統領に対し、これらの価値観に基づいて緊密な協力を申し出る」と首相は述べた。

 メルケル首相の大きな外交実績の1つに、EU28カ国をまとめ上げ、ウクライナ東部に侵攻したロシアに制裁を課したことが挙げられる。

 トランプ氏が公約通り、プーチン氏と緊密な関係を結ぶなら、米欧、そして欧州の対ロシア前線は崩壊し、首相の対プーチン政策が水泡に帰すだろう。

高い代償

 メルケル首相は環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)協定の交渉でもEU側の旗振り役を務めてきた。しかし保護主義政策を唱えるトランプ政権になれば、交渉が頓挫するのは目に見えている。自由貿易に強く依存するドイツへの打撃はことのほか大きいだろう。

 フィッシャー独元外相は今週発表した文章で、「国家主義の再来によって最も危険にさらされるのはドイツだろう」と警告。ポピュリズムの波がEUの弱体化や崩壊を招くなら、ドイツは「最も高い経済的・政治的代償」を支払うことになると予想した。

 このほか、気候変動や財政政策、軍事支出、金融規制といった数多くの課題でもドイツは試練に立たされそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ軍撤退なければ、ドンバス地方を武力で完全

ビジネス

アングル:長期金利2.0%が視野、ターミナルレート

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ADBと世銀、新協調融資モデルで太平洋諸島プロジェ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中