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【原爆投下】トルーマンの孫が語る謝罪と責任の意味(前編)

2016年8月6日(土)06時02分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

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広島に原爆を投下したB29「エノラ・ゲイ」の地上クルー(日付不詳) U.S. Air Force-REUTERS

――そんなあなたがなぜ、教科書以上のことを知るようになったのですか。

 まったくの偶然だった。94年、ノースカロライナ州でジャーナリストとして働いていたとき、ホームステイに来た17~18歳の日本人留学生の女の子が地元の人々に生け花を教えるというので、取材に出掛けた。彼女のホストファミリーは引退した地元の判事で、私の知り合いでもあった。

 彼女と生け花について20~30分話した後、判事が私に「あなたのおじいさんが誰だか彼女に話してある」と言ってきた。彼女は笑顔を浮かべて「素晴らしいですね」と言い、私は「ありがとう」と答えた。

 すると判事は彼女に向かって、「あなたのおじいさんについても話してあげなさい」と促した。彼女は非常に居心地が悪そうな表情を浮かべたまま答えなかった。彼女が何も言わないので、最終的には判事が口を開いた。「彼女のおじいさんはヒロシマで死んだ」と。

 私にとって、原爆の影響を直接的に受けた人やその家族に会ったのはそれが初めてだった。当時自分がどう思ったのかは覚えていないが、とにかく不意を突かれた。彼女が怒っているのではないか、と思ったかもしれない。でも彼女は笑顔を浮かべて「ありがとう」と言った。印象的だったのは、彼女が私の気持ちを心配しているように見えたことだ。判事が私たち2人を居心地悪くさせたことに、少し怒っているようにも見えた。

 私が彼女に伝えたのは、ただひとこと。大切な人を亡くした相手に誰もが言う言葉だ。「アイム・ソー・ソーリー」。国を代表して、あるいは祖父に代わって私が「謝る」という意味の「ソーリー」ではなく、「おじいさんを亡くされたことをとても残念に思います」という意味だ。

 その2日前、私はまったく別の体験をしていた。(連合軍勝利のきっかけとなった)ノルマンディー上陸作戦50周年を祝う式典に母と出席したときのことだ。アメリカの退役軍人2人が目に涙を浮かべていたので「どうしたのですか」と聞くと、「何でもない、何でもない。ただ、あなたのお母様に感謝しているのです。彼女のお父様が原爆を落とさなかったら、われわれは死んでいた。ここにはいなかったのだから」と言われた。

 私は数日のうちにアメリカの退役軍人と、ヒロシマで祖父を亡くした若い女の子の双方から話を聞いたわけだ。ずっと頭に残る経験だった。

 それから5年後、長男が学校からサダコの本を持ち帰ってきた(編集部注・広島で被爆して後遺症に苦しみながらも、回復を願って千羽鶴を折り続けた少女、佐々木禎子の実話)。学校の先生が読書の授業で読み聞かせてくれたという。長男はその本を気に入っていた。他の児童書のようなハッピーエンドではない本当の話だったから。私にとっても、これがヒロシマ、ナガサキに関するヒューマンストーリーに接した初めての体験となった。

 それまで私は長男に、曽祖父の決断について理解することが重要だと話したことはなかった。ヒロシマとナガサキが経験した被害を知ることが重要だと話したこともなかった。(サダコの本を読んでくれた)先生は子供たちに日本の歴史や文化について教え、日本食レストランや茶道教室に連れて行ってくれた。日本に関するさまざまなことをわが家に持ち込んでくれた。

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