最新記事

南シナ海

南シナ海裁定、中国国内で対立? 軍部が習主席に「強硬対応」促す

2016年8月3日(水)20時14分

8月1日、南シナ海における仲裁裁定に対し、人民解放軍の一部からより強硬な対応を求める声が上がっているが、中国政府は米国との衝突誘発を恐れ、この圧力に抵抗している。写真は南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島の美済(同ミスチーフ)礁。2015年5月、米軍提供(2016年 ロイター)

 南シナ海における仲裁裁定に対し、人民解放軍の一部からより強硬な対応を求める声が上がっているが、中国政府は米国との衝突誘発を恐れ、この圧力に抵抗している、と関係筋が1日明らかにした。

 南シナ海の領有権をめぐり、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に申し立てられた訴訟について、中国は参加することを拒絶。

 中国の領有権主張を否定し、フィリピン政府の主張を認めた7月12日の同裁判所の裁定について、中国政府は「法的根拠がなく、米国政府がでっち上げた反中シナリオの一環としての茶番」と非難している。

 裁定後、中国では国民主義的な感情が高まっており、散発的な抗議行動や、国営メディアにおいては強い調子の論説が見られた。

 これまでのところ中国政府は、さらに強硬な行動をとる意欲を示していない。その代わり、中国の領域を防衛することを宣言しつつ、対話による平和的な解決を求めている。

 しかし、自信を強めつつある中国人民解放軍の一部は、米国及び域内の同盟国を対象とした、恐らく武力を伴う、より強硬な対応を求めていることが、軍及び指導部と緊密な関係を持つ4人の関係者への取材から明らかになった。

 軍との人脈を持つ関係者の1人は、「人民解放軍は準備を整えている」と述べた。「1979年に鄧小平がベトナムに対して行ったように、われわれも踏み込んでいくことで、相手の面目をつぶすべきだ」

中国の同盟国であったカンボジアのクメール・ルージュ政権を、当時のベトナム政府が退陣に追い込んだことに報復するため、中国が短期的にベトナムに侵攻した一件を引き合いに出して、同関係者は匿名を条件にロイターに語った。

 習近平主席は、人民解放軍の支持を取り付けることに細心の注意を払っており、軍に対する指導力をしっかりと固めている。その指揮権が脅かされたことはない。

 習主席は、総合的な軍事改革を監督しており、軍の戦闘能力を強化しているが、その一方、中国が経済減速も含めた国内の開発問題に対応するうえで、対外環境の安定が必要だとも述べている。同主席が議長役を務める20カ国・地域(G20)首脳会議が9月に開催されるまでは、中国は大きな動きを控えるだろうと考えられている。

 だが、ハーグ裁定に対して軍の一部が態度を硬化させていることで、南シナ海における挑発的な行動や不慮の事件によって、より深刻な衝突へとエスカレートするリスクは高まっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中