最新記事

医療援助

いとうせいこう、ハイチの『国境なき医師団』で非医療スタッフの重要さを知る(7)

2016年7月14日(木)16時45分
いとうせいこう

 歩く間に陽光の中でフェリーはこんなことも言った。

 「今、我々は周囲の病院の能力をつぶさに調べている。我々は土地の医師たちに任せて去れるようにしなければならないからだ。だからこそ、ここクリュオのカバー率も徐々に減らすように心がけているんだよ」

 まぶしそうな顔で彼は続けた。
 「これから三年はかかるだろう。この施設もそれに備えて変えていかねばならない。いつまでも駐留しているのでは目的が違う」 
 そして、最後にこう付け加えた。


「難しいことだが、長い道も一歩からだ」

 フェリーはつまり、千里の道も一歩からを引用していた。ことわざをサービスしてくれたのだ。口の端がにやりと上がっていたから間違いなかろう。

 それから俺たちは 産科救急センターの病院内に足を踏み入れた。

 廊下でカールに会った。ダーンも緑衣姿で通りかかった。その時に疫学のエキスパートだとわかったオルモデもいた。

 そして看護師のリーダーであるベルギー人ステファニーにも会った。
 彼女はほんの一週間ほど前、帰還していたベルギー空港で爆弾テロに遭い、多くのニュース映像に出た人だった。携帯電話を耳にあて、右手を血で真っ赤にしながら何かしゃべっている写真だ。当時世界中の人が見たし、今も検索するとすぐにわかる。

 それが数日後にはもうハイチに戻って仕事を始めていたのだった。なんと勇敢な女性だろうか。

 となると、写真の意味もまるで変わってくる。
 悲嘆に暮れて家族に電話している女性、といういわゆるマスコミ向きの一枚ではない。

 おそらくあれは、状況を医療関係者に伝え、適切な処置を要請していた姿に違いないのだ。
 そうでなければ、怪我が治るのもそこそこにMSFに復帰するはずがないのだから。

参照記事:【写真リポート】ブリュッセルで連続自爆テロ

 そんな猛者たちが黙々と妊産婦たち、新生児たちを守る産科救急センターの内部については次回さらにくわしくレポートする。

続く


<補足>
・菊地紘子さんのカチンコチンになったインタビュー映像ダイジェストを、谷口さんが緊急にまとめてくれた。
その緊張ぶりと真面目さをどうぞご覧下さい。

<紘子さんメッセージ>

・また、第一回で紹介したビデオの日本語版も作られたようだ。

<MSFのTシャツへの思い>


profile-itou.jpegいとうせいこう(作家・クリエーター)
1961年、東京都生まれ。編集者を経て、作家、クリエーターとして、活字・映像・音楽・舞台など、多方面で活躍。著書に『ノーライフキング』『見仏記』(みうらじゅんと共著)『ボタニカル・ライフ』(第15回講談社エッセイ賞受賞)など。『想像ラジオ』『鼻に挟み撃ち』で芥川賞候補に(前者は第35回野間文芸新人賞受賞)。最新刊に長編『我々の恋愛』。テレビでは「ビットワールド」(Eテレ)「オトナの!」(TBS)などにレギュラー出演中。「したまちコメディ映画祭in台東」では総合プロデューサーを務め、浅草、上野を拠点に今年で9回目を迎える。オフィシャル・サイト「55NOTE

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日経平均は一時5万8000円乗せ、 買い一巡後は上

ビジネス

米CME、史上初のレアアース先物取引を計画=関係筋

ビジネス

国内企業物価、1月は前年比2.3%上昇 非鉄金属や

ビジネス

マクドナルド第4四半期決算、既存店売上高伸び率と利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 6
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 7
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 8
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 9
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中