最新記事

米銃産業

史上最悪フロリダ銃乱射事件に使われた人気ライフル

2016年6月28日(火)19時00分
エリック・マーコウィッツ

John Sommers II-REUTERS

<フロリダのゲイ向けナイトクラブで49人を撃ち殺すのに使われた銃は、銃業界が10年ほど前に「一般向け」に開発してドル箱に育てた攻撃用ライフルだった> 写真は全米ライフル協会(NRA)の展示会

 2016年6月12日にフロリダ州オーランドで起きた銃乱射事件で使用された攻撃用ライフルは、ニューハンプシャー州に本社を置く銃器メーカー、シグ・ザウエルによって製造されたものだ。

 シグ・ザウエルは2004年、倒産の危機に瀕していた。質の高いピストルで有名な同社だったが、当時の売上は横ばいだった。「倒産寸前で、いまにも崩壊しそうな企業だった」と同社のロン・コーエンCEOは「マネージメント・トゥデイ」誌に2010年に掲載された記事のなかで回想している。

 その後、コーエンCEOが下したある決断によってシグ・ザウエルは倒産を免れ、アメリカ第4位の銃器メーカーへと変貌を遂げた。コーエンは、一般市民向けの攻撃用ライフルを新たな主力製品に加えたのだ。

 それから約10年。同社の攻撃用ライフル「シグ・ザウエルMCX」は今月、フロリダ州オーランドにあるLGBT(性的少数者)向けナイトクラブ「パルス」でオマー・マティーンによって使用され、49人を殺害し、53人を負傷させた。あの、米史上最悪の銃乱射事件に使われたのがこの銃なのだ。

【参考記事】銃乱射はテロか憎悪か、思い当たり過ぎるフロリダの闇
【参考記事】レイプ犯と銃乱射犯に共通する「本物の男」信仰

 マティーンが攻撃用ライフルを使ったのは偶然ではない。アメリカのピストル所有者数は減少していたが、ビル・クリントン元大統領が1994年に法制化した「攻撃用武器規制法」が10年で有効期限切れになったことから、米銃器メーカーは一斉に一般市民向けの攻撃用ライフル販売を開始した。今ではそれがアメリカの銃器産業の収益の柱に成長している。

【参考記事】【動画】銃規制めぐり怒りのサボタージュ、米議会下院の法案否決で民主党議員座り込み

 アメリカの自動車産業が利益率の高いSUVという売れ筋商品を発見したのと同じように、銃器産業も、人間を大量に殺害する以外ほとんど実用性がない製品への需要を開発し、利益を生み出すことに成功したのだ。

チャンスをつかむ

 業界のこの転換は、シグ・ザウエルにプラスに作用した。かつてイスラエル軍で指揮官を務めていたコーエンは、この好機をとらえて、消費者向けのハイエンドな攻撃用ライフルを製造。それがシグ・ザウエルの業績を好転させた。

 2004年当時、同社の従業員数は130人だった。「シグ・ザウエルはそのころ、攻撃用ライフルはほとんど販売していなかった」と語るのは、2002~2005年に同社で警察・軍向け販売担当のバイスプレジデントを務めていたジム・プレッジャーだ。「本当に魅力的なライフルのシリーズを製造し始めた」のは、コーエンがCEOになってからだという。「価格は若干高めだが人気があった」

 今同社は、全米の製造工場に1,000人以上の従業員を抱え、1年で4万丁以上の銃器を販売するメーカーに成長した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

リーブス英財務相、広範な増税示唆 緊縮財政は回避へ

ワールド

プーチン氏、レアアース採掘計画と中朝国境の物流施設

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門

ビジネス

中国人民銀、公開市場で国債買い入れ再開 昨年12月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中