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法からのぞく日本社会

刑事裁判の新制度「一部執行猶予」は薬物中毒者を救うか

2016年6月9日(木)17時39分
長嶺超輝(ライター)

 さらに、保護観察所と連携している医療機関や精神保健福祉センターに、治療などを委託することも可能だ。覚せい剤などの違法薬物が脳内にもたらす「見えない毒牙」から逃れられず苦しんでいる人々を公的に救済する治療環境は、着実に整ってきている。

ここからが清原氏の最大の「天王山」

 なお、清原氏に対する今回の執行猶予判決に、裁判所は「保護観察」を付けなかった。本人が希望していたにもかかわらず、あえて保護観察を不要と判断した明確な理由はわからない。

 野球人として著名な清原氏には、保護観察を付けるまでもなく、医療関係者を含めてたくさんの協力者が集まると考えたのか。それとも、自ら病院と契約して自費で治療を続けるだけの経済力を持っているとの認識だろうか。

 いずれにせよ、彼にとって最大の「天王山」の戦いが、引退後に訪れたといえるのかもしれない。だが、そのぶん、最大規模の応援や関心、注目が寄せられている。治療という戦いに専念することで、見事「勝利」を収め、また豪快な笑顔を見せていただきたい。

 その「勝利」が社会にもたらしうる、ポジティブな影響力は計り知れない。

[筆者]
長嶺超輝(ながみね・まさき)
ライター。法律や裁判などについてわかりやすく書くことを得意とする。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、著書11冊。最新刊に『東京ガールズ選挙(エレクション)――こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』(ユーキャン・自由国民社)。ブログ「Theみねラル!」

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