最新記事

法からのぞく日本社会

刑事裁判の新制度「一部執行猶予」は薬物中毒者を救うか

2016年6月9日(木)17時39分
長嶺超輝(ライター)

 刑務所で服役し続けて、行きたいところに行けず、会いたい人にも会えず、「もう二度と、こんな目に遭いたくない」と懲りて、出所後に社会復帰できるとすれば、それは初めから自分の意思で犯罪をやめられる人である。

【参考記事】マリフアナ合法化は格差を拡大させる

 覚せい剤のような中毒性の強い違法薬物を長期間にわたって使ってしまった人の大半は、もはや自力ではその犯罪をやめられなくなっている。処罰より先に、本人の内側にある「中毒症状」という根本原因を取り除かなければならない。

 今月から新たに導入された「一部執行猶予」は、犯罪を繰り返している人に1カ月~3年の懲役刑などを言い渡す場合、「実刑と執行猶予をミックス」させる制度だ。

 具体的には「主文 被告人を懲役3年に処する。その刑の一部である懲役1年につき、3年間、執行を猶予する」といった、少々複雑な内容になると思われる。これは「まず、懲役2年の実刑。その後は釈放され、執行猶予(3年間)のついた懲役1年」という意味である。裁判所は、実刑か執行猶予かの二者択一ではなく、さじ加減を効かせて、それぞれの被告人の事情に合った処遇を調整できるようになった。

 今後、刑の一部執行猶予で出所する薬物依存者は、年間約3000人と見積もられている(『更生保護学研究』(日本更生保護学会)2015年版p.99より)。

 また、薬物犯罪者に対して一部執行猶予判決を言い渡すとき、その執行猶予期間中は、必ず「保護観察」を受けさせるようにしたのも、新制度の大きな特徴だ。

保護観察とは何か?

 保護観察とは、犯罪を犯した人が立ち直って社会に復帰していけるよう、保護観察官と保護司がタッグを組むことで、国が責任をもって支援ないし監督する制度である。

 保護観察官は常勤の国家公務員であり、全国に約1000人いる。保護観察の対象者が出てきたら、本人や家族と面会したうえで、その地域から担当の保護司を選ぶ。

 保護司は無給のボランティアという立場で、定期的なペースで保護観察の対象者と面会し、より密接な距離感で立ち直りをサポートする。現在、全国で約4万7000人が保護司としての活動を行っている。

 保護観察の対象となった薬物犯罪者に対しては、保護観察所で「薬物処遇プログラム」を受けさせることもある。その引受人や家族などの関係者を対象にした「引受人会・家族会」という名のセミナーも実施している。

 また、身寄りのない刑務所出所者に一定期間住居を与えて生活指導などをする「更生保護施設」の中には、薬物犯罪者の立ち直りを重点的に行っているところもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド西部で離陸直後市街地に墜落、死者多数 英国行

ビジネス

ECB金利は適切な水準、インフレ低下は一時的=シュ

ビジネス

独主要シンクタンク、25年成長率を上方修正 財政拡

ワールド

IAEA理事会、イラン非難決議採択 イランは対抗措
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 4
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 7
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 8
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 9
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中