最新記事

ドイツ

中国美的の独クーカ買収、自由貿易派メルケル首相のジレンマに

2016年5月20日(金)19時05分

 5月19日、中国家電大手の美的集団が独産業用ロボット大手クーカに対して行った50億ドル規模の買収提案によって、メルケル独首相はジレンマに直面している。写真はベルリンで3日撮影(2016年 ロイター/Hannibal Hanschke)

 中国家電大手の美的集団<000333.SZ>が独産業用ロボット大手クーカに対して行った50億ドル規模の買収提案によって、メルケル独首相はジレンマに直面している。

 美的がクーカを買収すればドイツが優位にある最先端技術が移転されることになるが、自由貿易を掲げるメルケル首相にとって買収計画への干渉は難しいためだ。

 首相は「インダストリアル・インターネット」と呼ばれる国内のイノベーションを支持しているほか、首相率いる連立政権は産業のデジタル化「インダストリー4.0(第4次産業革命)」を経済戦略の中核に位置付けている。

 メルカトル・インスティテュート・フォー・チャイナ・スタディーズ(ベルリン)のアナリスト、ミッコ・フオタリ氏は「政府は(産業面での)リーダーシップをどうすれば維持できるのかについて懸念していると思うが、これまでのところ、このリーダーシップを守るためのアプローチはみられない。こうしたやり方はドイツの産業政策ではないからだ」と指摘。「戦略的な思考が働くのかもしれないが、中国資本であれ、ドイツに流入する資本にドイツ政府が開放的であり続けることは明白だ」と述べた。

 18日に発表された美的による買収提案は、クーカの評価額を約45億ユーロ(50億5000万ドル)としている。

 メルケル首相はこれまでのところ、この買収提案に対して公にコメントしていない。

 ドイツ下院与党会派のミヒャエル・フックス副議長は、買収提案が発表された直後、政府として買収を阻止するために介入する意図はないと明らかにした。

 ただ、複数の政府筋によると、ドイツ政府はクーカの技術が「インダストリー4.0」にとってどれほど重要なのかを精査する方針だ。

「インダストリー4.0」のモデル企業

 メルケル首相は2015年3月にバイエルン州アウクスブルクのクーカ工場を訪れ、同社を独産業界の未来のモデルだと称賛したことがある。

 首相は当時、「ここは『インダストリー4.0』に向けたドイツ製造業界の胸躍る実例だ」と指摘。「われわれは常に先端に居続けることを望むならこれをさらに発展させなければならない」と述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替円安、行き過ぎた動きには「ならすこと必要」=鈴

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中