最新記事

ワークプレイス

つながりから「未来」を学び続ける

2016年5月13日(金)15時05分
WORKSIGHT

wsShell-5.jpg

日光をふんだんに採り入れることのできる1階の食堂。ランチタイムには大勢の社員で賑わい、コミュニケーションを楽しんでいる。

wsShell-6.jpg

(左)コミュニケーション・アドバイザーのピーター・ヴァン・ボスショーテン。(右上)事務棟1階の執務スペース。PR関連部署の社員が働き、席は固定席になっている。事業として扱っているのはエネルギーであるが、アムステルダムというコミュニティに対してフレンドリーな存在でいたいという願いから、透明感のある設計にした。(右下)ライブラリースペース。10年以上先の長いスパンでのリサーチにも力を入れるシェルならではのスペースだ。まるで図書館のような蔵書の数々である。

 現状、プラント始動時に全てを正常に機能させるため10年単位の研究開発を要している。この時間を短縮するために、シェルは「つながり」、すなわち共同作業に活路を見出したのである。何より重要だった課題は、可能性のないアイデアを早い段階で見極めること。「早い段階での失敗」がキーになる。同時に1つひとつのアイデアにかける時間を可能な限り短縮すること。他者と関わる必然はここに生じた。

「同じ建物内に1000人以上の従業員が働いていることで、リサーチレベルでのアイデアの交換も可能になり、全てがフレキシブルになりました」

 かくして、より多くのアイデアを検討し、より多くの「小さな」失敗を積み重ねていく態勢が整うわけだ。イノベーションは失敗の繰り返しから偶発的に生まれるもの。ならばテクノロジーセンターは、失敗そのものを減らすことより、価値ある失敗を増やすことに向かうべき、ということだ。

「社会に対して開かれた会社」を表現する建物

 もっとも、ロイヤルダッチシェルが追求するコンテクストは社内に限られたものではない。

 例えば、シェル・テクノロジーセンター・アムステルダムを訪れた者は皆すぐに、その空間の「明るさ」に気がつくだろう。ガラス張りの外観で、自然光がふんだんに取り込まれる健康的なオフィス。従業員の労働環境を配慮したものであるには違いない。しかし、これは同時に「見せる」ためのデザインでもあるのだという。同社広報担当のイミティアス・ラムジャンベグ氏が補足する。

「シェル・テクノロジーセンター・アムステルダムが完成した2009年当時、人々の環境意識が高まっていました。私たちは、アムステルダムのコミュニティに対してフレンドリーな存在でありたかった。社会に対して開かれた会社、それを表現するためのデザインなんです」

 アムステルダムに研究施設を保つという決断も社外とのつながりを強く意識したものだ。オランダの首都であり、世界中から才能が集まる場所。ここには土地の魅力がある。

「才能ある人々が、積極的に働きたくなる環境をつくりたかったんです。オープンなカルチャーがあり、インスピレーションがかき立てられる環境をね。そうして社内のみならず、社外の人々ともつながっていく。ロイヤルダッチシェルの社員はみな優秀ですが、エネルギーを巡る諸問題は、社外との協業なくして解決できるものではありませんから」

創業:1907年
売上高:約4,569億ドル(2014)
純利益:約163億ドル(2013)
従業員数:約92,000人(2014)
http://www.shell.com

コンサルティング(ワークスタイル):YNNO
インテリア設計:Fokkema & Partners Architects
建築設計:Arcadis

WORKSIGHT 07(2015.4)より

text: Yusuke Higashi
photo: Takeshi Miyamoto

※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
wslogo200.jpg


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米失業保険申請、10月最終週は小幅増=ヘイバー・ア

ワールド

北朝鮮が弾道ミサイル発射、EEZ外に落下したとみら

ワールド

米主要空港で最大10%減便へ 政府閉鎖長期化で 数

ワールド

高市政権にふさわしい諮問会議議員、首相と人選=城内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中