最新記事

アメリカ経済

3Dプリンターがアメリカの製造業を救う

1台で小規模消費地生産ができるプリンタが普及すれば海外の生産拠点は不要になる

2016年5月13日(金)17時05分
ケビン・メイニー

広がる夢 3Dプリンターは近い将来、製造業の一翼を担うと期待されている(写真は3Dハブズのマスコット、マービン) UNITED PHOTOS-REUTERS

 中国やバングラデシュから製造業の雇用を取り戻せ──米大統領選の候補者たちは盛んにわめいているが、ベンチャー企業3Dハブズの予測どおりなら、政治の出番はなさそうだ。

 彼らが言うには、技術の進歩が必然的にアメリカの製造業を復活させる。アメリカのメーカーが製造拠点を国外に移す経営上のメリットは今後10年以内に消滅。巨大工場という構想そのものが時代遅れになる。

【参考記事】中国との「不平等条約」に屈したGE

 大半の製品が消費地で、それも地域のミニ工場で生産され、消費者は商品を直接受け取りに行くか、ドローンで配達してもらえるようになる。「そうなれば1カ所の拠点に1000台の機械を備えるよりも、1000カ所の拠点に1台ずつ置くほうが賢い」と、3Dハブズの共同創業者ブラム・デズウォートは言う。

 言い換えれば、「分散型製造方式」だ。これは昨年の世界経済フォーラムで、最も注目すべき技術動向の1つに選定されたアイデア。普及すれば雇用ばかりか、国際政治や気候変動にも大きな影響を及ぼす。

 アムステルダムとニューヨークに本拠を置く3Dハブズは、この分野のパイオニア企業の1つ。世界156カ国にある約2万9000台の工業用3Dプリンターをオンラインで結ぶネットワークを運営している。もしも3Dプリンターで何かを作りたければ、3Dハブズのサイトで必要な作業をこなせる最寄りのプリンターを探し、ファイルを送信すればいい。後は完成品を取りに行くだけだ。

【参考記事】スケッチをするように簡単に3D造形ができる3Dペン

 3Dハブズを世界最大の工場と呼ぶのは、民泊仲介サイトのAirbnb(エアビーアンドビー)を世界最大のホテルと呼ぶようなもの。3Dプリンターの性能はここ数年で飛躍的に向上したが、作れるものはまだ限られている。3Dハブズの利用者の大半は建築家やデザイナーで、月間ざっと3万点の建築模型や試作品を3Dプリンターで成形している。

 それでもデズウォートは壮大な構想を描いている。3Dプリンターの性能はどんどん向上し、価格も低下している。シーメンスの予測では、今後5年間に3Dプリントのコストは50%下がり、プリント速度は5倍向上するという。調査会社ガートナー・グループは、3Dプリント市場は15年の16億ドルから18年には134億ドルに成長すると見込んでいる。

カスタムメイドも自在に

 今のペースで技術が進歩すれば近い将来、3Dプリンターでスニーカーを作れるようになるかもしれない。「ナイキのような企業と提携し、消費地に製造拠点を移すのが僕らの構想だ」と、デズウォートは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CB消費者信頼感、12月は予想下回る 雇用・所得

ワールド

トランプ氏「同意しない者はFRB議長にせず」、就任

ワールド

イスラエルのガザ再入植計画、国防相が示唆後に否定

ワールド

トランプ政権、亡命申請無効化を模索 「第三国送還可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中