コラム

スケッチをするように簡単に3D造形ができる3Dペン

2016年02月01日(月)13時00分

 筆者は数年前から個人的に購入した3Dプリンタでメイカーズ的な工作などを楽しんでいる。最近では、価格も、対応アプリケーションやサービスなどの周辺環境もずいぶんこなれ、以前よりはずっと気軽に使えるようになってきた。しかし、まだまだ一般消費者にとっては、イメージ通りの作品を設計して出力するにはハードルが高いところもある。

 また、アート系の立体造形分野での3Dプリンタ利用も進んでいるが、そちらは数学的に生成したデータを利用した精緻な作品が多く、手作りの彫刻のようなアナログ感や荒々しさとはやや距離を感じる。

 たとえばスケッチをするように、もっと簡単に3D造形ができないものか...と一部の人々が考え始めていたときに登場したのが、3Doodler(スリー・ドゥードゥラー)だった。

 Doodler(ドゥードゥラー)とは、ちょっとしたフリーハンドの「イタズラ描きをする人」を意味する英単語である。それを立体化したので、製品名は3Doodler。単純だが、なかなか洒落ている。しかし、この製品も、他の発明品によくあるように、実は失敗から生まれたものなのだ。

 樹脂を高温で溶かして積層する造形方式は、比較的構造が単純で扱いも容易なことから、ホビー向けのの3Dプリンタによく採用されている。クラフト系の工作などで接着剤代わりに使われる、グルーガンを高度化したものをイメージするとわかりやすいだろう。

 ただし、もし造形途中で樹脂の溶解ヘッドの詰まりなどを直すためにマシンを止めると、それまで時間をかけて積層した部分は無駄になり、破棄して最初からやり直さなければならない。

 3Doodlerの発案者も、自分の3Dプリンタで完成間近の作品をダメにしてしまい、思わず溶解ヘッドを外して、欠けた部分を手作業で補った。そのときに、最初から手で動かすペン型の立体造形ツールのアイデアが浮かんだのである。

 こうして、普通のカラープリンタに対するサインペンのような位置付けで、3Dプリンタに対する3Doodlerが誕生した。初代モデルは、ペンというよりもズッキーニを葉巻型にしたような太さと重さだったが、第2世代の3Doodler 2.0では、かなりスリムでスタイリッシュなデザインとなり、細かな造形のコントロールが行いやすくなった。

 熱で樹脂を溶解する以上、火傷などには注意が必要だが、筆者の経験では、小学校の中・高学年くらいから分別を持って利用できる。

 慣れれば、床面から線を立ち上げて、そのまま空中に造形していけるが、平面的に作ったパーツを組み上げて立体化しても十分楽しめる。また、そのためのテンプレートも、東京タワーやエッフェル塔から、伊達メガネ、ランプシェードなどまで、色々と用意されている

 クールジャパンやモノ作り大国の復興が叫ばれる中で、実際に子どもたちが触れるデバイスには、ゲームやアニメの消費者を育てるだけのものが多い。与えられた世界の中で受け身の遊び方に慣れてしまわぬよう、自分が欲しいものや想像したものを自ら作り上げられる製品に、もっと目を向けるべきときがきているのではないだろうか。

2015年にリリースされた3Doodler 2.0は初代モデルよりも細く、軽く、コントロールしやすくなり、より繊細な表現が可能となった。


2.大谷作例1.JPG

筆者が3Doodlerで制作した仮面舞踏会的なマスク。100円ショップのオモチャのマスクを利用して輪郭をとり、メッシュ部分をフリーハンドで仕上げたもの。


3.大谷作例2.JPG

原宿のMoMAストアで開かれた3Doodlerの展示会に出展した際の筆者の作品群。左中段の輪ゴム鉄砲は実際に機能し、右下のシャシーは可動式のサスペンションを持つ。


4.ファッションへの応用.jpg

海外では、このようにプロのアーティストの作品制作にも使われている。これは、エリカ・グレイによるウェアラブル彫刻「クリスタル・マトリクス」。

プロフィール

大谷和利

テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー、NPO法人MOSA副会長。アップル、テクノロジー、デザイン、自転車などを中心に執筆活動を行い、商品開発のコンサルティングも手がける。近著に「成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか」(現代ビジネスブック)「ICTことば辞典:250の重要キーワード」(共著・三省堂)、「東京モノ作りスペース巡り」(共著・カラーズ)。監修書に「ビジュアルシフト」(宣伝会議)。

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