最新記事

映画

カトリック教会に盾突いた記者魂

ボストン・グローブ紙記者が司祭による児童虐待をスクープした経緯を描く社会派の『スポットライト』

2016年4月15日(金)16時18分
デーナ・スティーブンズ

糸口を探して 図書館や裁判所で地道に資料を当たり真実に迫る記者たち(4Kerry Hayes ©2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

 ジャーナリズム界を舞台にした映画が、報道そのものを描くとは限らない。多くは記者が取材する危ない世界をテーマにしたり(『危険な年』『パララックス・ビュー』)、メディアの腐敗を風刺したり(『ネットワーク』)、職場の恋愛模様を描いたり(『ブロードキャスト・ニュース』)といった具合だ。

 それでも時折、ジャーナリズム自体に焦点を当てた秀作が登場する。ニュースの陰には必ず調査し、取材し、裏を取った記者がいることを観客に思い起こさせてくれる映画だ。

 今年のアカデミー賞で作品賞と脚本賞に輝いたトム・マッカーシー監督の『スポットライト 世紀のスクープ』も、そんな1本。ボストンを(後に判明したところによれば世界をも)むしばんでいたカトリック司祭による児童への性的虐待の実態を、ボストン・グローブ紙の報道チームが暴いた経緯を描く。事実に基づく映画だ。

【参考記事】ローマ法王は辞めるべきだ

 そのチームとは、ロビーことウォルター・ロビンソン(マイケル・キートン)率いる調査報道班「スポットライト」。彼らは何十年も罪に問われることなく教区から教区へと異動になり、最終的に130人もの児童を虐待したジョン・ゲーガン神父を調べていたが、スキャンダルの規模がはるかに大きい可能性に気付く。

突破口を開くのは「紙」

 蛍光灯の下、黄ばんだ古新聞と紙コップが積み上がったむさ苦しい編集部には、ロビーのほか3人の記者が詰めている。

 真実を知るためなら犬のごとく情報源に食い付いて離さないマイク・レゼンデス(マーク・ラファロ)。被害者に寄り添い、ひた隠しにしていた体験を聞き出すサーシャ・ファイファー(レイチェル・マクアダムス)。家族思いのマット・キャロル(ブライアン・ダーシー・ジェームズ)は児童虐待事件を取材するストレスを、ホラー小説を書いて紛らす。

 チームはあらゆる角度から事件を追う。苦悩と怒りを抱えた被害者たちに話を聞き、彼らの弁護士に取材し、かたくなに協力を拒む大司教ら教会側の代表者と渡り合う。握りつぶされた裁判記録の公開を求め、組織的な隠蔽工作の証拠をつかむため膨大な聖職者名簿をしらみつぶしに当たる。

【参考記事】1000件以上黙殺されていた神父による児童への性的虐待

 記者がぶつかる壁や焦りを、マッカーシーは観客にもリアルに感じさせる。例えば9・11テロ取材のためにチームを外れていたマイクが復帰し、教会の記録を入手しようと裁判所の廊下を猛ダッシュするシーン。ライバル紙にスクープを横取りされたくないこともあるが、重大な事件を一刻も早く報道したくて気がせいているのがよく分かる。

 もともとカトリック教徒だったマイクとサーシャはわずかに残っていた信仰心を、次々と明らかになるおぞましい事実に揺るがされる。アイルランド系カトリックのコミュニティーに生まれ育ったロビーはコネを利用して取材に励むが、その過程で幼なじみとの友情が危うくなる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米失業保険継続受給件数、10月18日週に8月以来の

ワールド

米FRB議長人選、候補に「驚くべき名前も」=トラン

ワールド

サウジ、米に6000億ドル投資へ 米はF35戦闘機

ビジネス

再送米経済「対応困難な均衡状態」、今後の指標に方向
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中