最新記事

タックスヘイブン

NYタイムズですら蚊帳の外、「パナマ文書」に乗り遅れた米メディア

アメリカで「世紀のリーク」の扱いが小さかった背景には、米大手メディアの調査報道不参加がある。今後の暴露は生データを握るメディアに注目だ

2016年4月8日(金)16時28分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

なぜ載っていない? 読者から説明を迫られたニューヨーク・タイムズのPublic Editorが、同紙Deputy Executive Editorに質問をして記事を公開、同紙がパナマ文書の存在を知らず、そのため独自取材できない記事では「一面にふさわしくない」と判断したことを明かしている

 世界の権力者や富裕層がタックスヘイブン(租税回避地)であるパナマの法律事務所モサック・フォンセカを使って課税逃れをしていた――米国東部時間の4月3日午後、こうした実態を裏付けかねない内部資料「パナマ文書」についての第一報が出ると、ニュースは瞬く間に世界を駆け巡った。

 この「爆弾」を落とされて激震が走ったのは、中国やロシア、アイスランドやイギリスの官邸だけではない。1年以上前からこの文書の存在を知っていた世界100以上のメディア以外の報道機関も同じだ。

 これまでに出ている情報によれば、発端は2014年末にある匿名の人物が南ドイツ新聞の記者に連絡をとり、パナマ文書のリークを申し出たこと。さながら「ディープスロート」のような人物から情報提供を受けた南ドイツ新聞は、米ワシントンに本拠を置く非営利組織「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」に話を持ちかけ、世界中のメディアを巻き込んで文書を分析することにした。文書データのサイズが2.6テラバイト、ファイル数にして1150万(480万の電子メール、100万の画像、210万のPDF)と莫大で、裏取りするのにはグローバルな調査報道体制を敷く必要があったからだ。

 こうしてICIJの呼びかけで世界76カ国、100以上のメディアから記者370人以上が協力し、約1年かけて情報を分析していった。ICIJはプロジェクトに参加する記者だけがアクセスできるURLを作って、国をまたいで情報交換する仕組みを整えたという。この世界的な調査報道の成果が「パナマ文書」の衝撃だ。

【参考記事】パナマ文書はどうやって世に出たのか

 プロジェクトにはイギリスからはBBCやガーディアン紙、フランスからはルモンド紙などが参加し、これらの媒体サイトには「パナマペーパー」の特設コーナーが設けられて大々的な報道が続いている。ところが、IT情報サイトvocativによれば4月3日から4日にかけて世界の参加メディアが一斉にパナマ文書を報じるなか、4日のアメリカの各紙一面にはほとんど掲載がなかった。

 米メディアでの扱いが小さかった理由は、1つには冷泉彰彦さんも指摘しているように、5日のウィスコンシン州の大統領選予備選に大きな注目が集まっていたことがあるだろう。さらに冷泉さんは、アメリカでは節税や脱税が非難されない「風土」があることも指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国6月の製造業PMI、5カ月連続の50割れ 前月

ビジネス

大企業の業況感は小動き、米関税の影響限定的=6月日

ワールド

ノキア含む企業グループ、EU持続可能性規則の後退に

ビジネス

米北東部の天然ガス・パイプライン計画、トランプ氏政
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中