最新記事

回顧

【再録】マイケル・ジョーダンは私を抱きしめて言った

「再会できてうれしい」――97年当時、世界屈指のスーパーヒーローだったジョーダンの笑顔と気配りに圧倒された記者

2016年3月25日(金)18時40分
アリソン・サミュエルズ(スポーツ、エンターテインメント担当)

この靴を履いていた 97年の取材当時、人気のバスケットボールシューズ「エアジョーダン」をめぐる殺人事件まで起きていて、記者は実際に会うまでジョーダンに好意を抱いていなかった。実際に会うまでは……(ラスベガスの「シュージアム」に飾られている、ジョーダンが履いていた「エアジョーダン1」、2012年撮影) Steve Marcus-REUTERS


ニューズウィーク日本版 創刊30周年 ウェブ特別企画
1986年に創刊した「ニューズウィーク日本版」はこれまで、政治、経済から映画、アート、スポーツまで、さまざまな人物に話を聞いてきました。このたび創刊30周年の特別企画として、過去に掲載したインタビュー記事の中から厳選した8本を再録します(貴重な取材を勝ち取った記者の回顧録もいくつか掲載)。 ※記事中の肩書はすべて当時のもの。

※この記者によるインタビュー記事はこちら:【再録】マイケル・ジョーダンの思春期、ビジネス、音楽趣味......


 このインタビューを行った97年当時、マイケル・ジョーダンは世界でも指折りのスーパースターだった。私が彼と初めて会ったのはその1年前。最初の引退から復帰して数試合目のころだ。

 私はそれまで、あまり彼に好意をいだいていなかった。応援しているデトロイト・ピストンズがジョーダン率いるシカゴ・ブルズに痛い目にあわされていたし、テレビや新聞で目にする彼の気取ったコメントも鼻についた。

 バスケットボールシューズ「エアジョーダン」をめぐる騒ぎも記憶に残っていた。高価なシューズ欲しさに若者が殺人事件を起こすなど、社会現象になっていたにもかかわらず、ジョーダンはなんの呼びかけも、ナイキに値下げを働きかけることもしなかった。

 私にはそれが我慢ならなかった。共通の知人を介して会うことになったときも、とくに思い入れはなかった。

 しかし、自己紹介しながら片手を差し出すジョーダンの姿に、私はとにかく圧倒された。テレビや雑誌でよく目にしていた笑顔と魅力は最初の瞬間から輝きを放ち、握手は誠実で力強かった。そしてこちらの目を真っすぐ見たまま、私の名前を復唱した。まるで、次に会うときのために覚えておこうといわんばかりだった。

 私は単独インタビューを申し込んでみたくなり、共通の知人から、ジョーダンの秘書のジャッキーの連絡先を教えてもらった。おかげで手ごわいスポーツエージェントや、毎日数千件の取材申し込みに追われるブルズの広報を通さずにすんだ。

 ジャッキーに連絡を取ると、2日ほどで返事が来た。シカゴに来て数日滞在すれば、ジョーダンはなんとか時間をつくるという。

 私はシカゴへ飛んだ。2日後だったか3日後だったか、ブルズのジムでトレーニングを終えたジョーダンは私と向き合った。

 インタビューの間、彼の犬(闘犬だった)が周りをうろうろしていた。私が少し怯えていることに気づくとジョーダンは犬を外に出し、私に謝った。

 以来、私は毎月シカゴに通うようになった。試合会場までジョーダンの車に同乗し、ロッカールームまで並んで歩くことが試合前の「儀式」になった。

 理由はともかく、ジョーダンは心から私を気に入ってくれていたようだ。インタビューを断られたことはない。必ず10分ほど時間をつくってくれた。

次のジョーダンは現れない

 97年9月のインタビューは、ニューヨークのセントリージス・ホテルで行った。ジョーダンはいつものように力強く私を抱き締め、「再会できてうれしい」と言った。ナイキから来た代理人と、ジャッキーとは別の秘書も同席した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏「6歳児と戦っている」、大統領選巡りトラ

ワールド

焦点:認知症薬レカネマブ、米で普及進まず 医師に「

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中